ペットの高齢化の現状と生ずる問題

2018年2月1日

 

私たち人間の高齢化は生活水準の向上とともに進んできたが、現在同じことがペットにも起こり始めている。そして、ペットの高齢化が進むに連れて新たな課題やサービスも現れた。本記事では、こうしたペットの高齢化の現状と背景、それらに関連して現れた課題とサービスをご紹介していきたい。

 

ペットの高齢化の現状と背景

2010年からの平均寿命の推移を見ると、犬猫ともに上昇傾向にある(出所:ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」)。特に2012年から2015年にかけて平均寿命の伸びは著しく、犬は1.0歳、猫は1.3歳とそれぞれ平均寿命を延ばしている。

参考に、人間の高齢化と比較してみよう。下図のとおり、人間の平均寿命もまた直近5年間で1歳前後(男性は1.2歳、女性は0.8歳)延びている。しかし、5年間の上昇率で見ると、人間はせいぜい1~2%であるのに対し、犬は7.1%、猫に至っては9.7%も上昇した。

15歳前後の犬猫にとっての1年間は、人間の4、5倍にも及ぶ(厳密には、体格等に依る)。すなわち、ここ数年間の平均寿命の延びは、人間に換算すれば平均寿命が約4年も延びたことになる。

出所:一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

出所:一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」、及び、「簡易生命表」(厚生労働省)(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life15/index.html)をもとにアイペット損保にて作成
注:図中の値は各グループの2010年値を100とした時の平均寿命の相対値を表す

次に、犬と猫それぞれについて、より詳細に平均寿命を見ていく。

犬を超小型、小型、中・大型の3グループに分けると、超小型犬の平均寿命の上昇率が特に高く、犬全体の上昇率を押し上げていることが分かる。日本で飼育頭数が多いトイプードルやチワワ等はこの超小型に分類される(厳密には、定義による)ため、こうしたメジャーな品種を中心に平均寿命が延びている、ということだろうか。
出所:一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

猫の場合は室内のみで飼っているか否かで比較した結果、室内飼いの方が外飼いよりも平均寿命が2歳以上長いことがわかった。外に出ることで事故やケガに遭う確率が高まるため、外猫は寿命が短くなりやすい。しかし、直近5年間の推移を見ると、外に出ない猫があまり寿命を延ばしていないのに対し、外に出る猫は2歳以上延ばしているようだ。

出所:一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」

ペットの高齢化の背景

以上のとおり、ペットの高齢化は顕著に数値に現れているが、これほどの延びはどのような背景(要因)の下で起きているのだろうか。そこには、「飼育の質の向上」「動物医療の発達」「環境の改善」が関係しているかもしれない。

飼育の質の向上

まず一つには、飼育の質の向上が考えられる。私たち人間が生活水準の向上とともに高齢化が進んだように、犬や猫にプレミアムペットフード等のより栄養価の高い食事を与え、ストレスをかけない飼い方をしてあげるようになったことが長寿命化に寄与したように思われる。

また、近年は犬や猫に関するメディアが多く現れ、いつでも簡単に適切な飼育方法を検索することができる。特にメジャー犬種に関する情報は豊富に揃っており、それ故に質の高い(適切な)飼育を行うことができるため、メジャー犬種の多い超小型犬が最も平均寿命の延びが大きいのかもしれない。

動物医療の発達

次に考えられる長寿命化の要因は動物医療の発達だ。ペットの家族化に伴い、ペットに対して人間と同レベルの診断を受けさせたいという飼育者が増えてきており、CTやMRIといった高度な医療技術が動物病院にも導入され始めている。現状、このような高度医療技術を導入している動物病院は大規模病院に限られるが、ペット保険の加入率の増加やペットの高齢化による疾病の多様化等が起因して、高度医療に注力する病院が今後増える可能性は高い。例えば、二次診療(他病院の紹介による診断)に限り高度医療を提供することに特化している「日本動物高度医療センター」が2015年3月に上場を果たすなど、「高度医療」は動物医療業界でもホットなキーワードだと思われ、それが需要サイド(飼育者)にも浸透すれば更なる長寿命化が見込まれるだろう。

環境の改善

3つ目に考えられるのがペットにまつわる環境の改善だ。ペット産業全体が盛り上がり、あらゆるサービスが普及していくことでペットが過ごしやすい環境が整ってきている。ペットと飼育者が快適に過ごせるように設計された「ペット共生マンション」のようなインフラの整備から、旅行等の際にペットを預けたい人と引き受ける人をマッチングする「DogHuggy」のような新興サービスの登場まで、変化は様々だ。

さらに、環境の改善としては、野良犬・野良猫の減少が挙げられる。近年は地方公共団体と動物愛護団体が協力して、犬猫の引取り・譲渡活動を行っていたり、野良猫に対するTNR(捕獲・不妊手術・元の場所に帰す)活動を行う地域も見られる。加えて、ワクチン接種の普及などで感染症対策が進んでいることもあり、結果として、外に出る猫の平均寿命が延びたと推測される。

 

ペットの高齢化から生まれる問題・解決策

最後に、ペットの高齢化が進むに連れて生まれる問題と解決策について考えたい。

まず、高齢になったペット自身に関する問題として「疾病の多様化」がある。人間の高齢化が進むに連れてガンや認知症といった疾病が増えたように、犬や猫に関しても長寿命化に伴って疾病が多様化するようだ。従って、そうした疾病を未然に防ぐ/早期に発見するための仕組み作り、そして、実際に発覚した疾病を治療する医療技術の開発が課題だろう。

また、ペットが高齢になることで飼育者に生ずる問題として、老老問題がある。人間の高齢化が進むと同時にペットの高齢化も進むことで、高齢飼育者×高齢ペットという状況が多数出現するだろう。ペット飼育にはある程度の苦労が必要であり、高齢ペットの飼育となれば尚更大変だ。それ故、このままでは高齢飼育者による飼育放棄が増えてしまうかもしれない。あるいは、飼育者よりもペットが長生きすることで、ペットだけが1頭取り残されるケースも増えるだろう。

これらの問題に対処する手段として、現状既に「老犬ホーム」や「ペット可サービス付き高齢者向け住宅・ペット可老人ホーム」、ペット信託といった新たな施設・サービスが現れている。老犬ホームは、引取りを断られやすい老犬を安心して預けることができるため、自身が高齢であることを理由に飼育を断念してしまう人にも嬉しいサービスだ。一方ペット可サ高住やペット可老人ホームは、ペットと過ごしやすい住居/施設に高齢者自らに入居してもらうことで、安心してペットと暮らせるようなサービスを提供している。ペット信託は、生前に信託契約を結ぶことにより、自分の死後にペットとその飼育費を新飼育者へしっかりと託すことができるサービスだ。これによって、取り残されたペットが保健所に引き渡されることを防ぎ、殺処分数の減少にも寄与するかもしれない。

老犬ホームやペット可サ高住、ペット可老人ホームに関しては、それらのサービスを行っている方々へのインタビュー記事で詳しくご紹介しています。
■老犬ホーム:「リブモ」代表取締役・森野氏へのインタビュー
■ペット可サ高住:「ゆうペットシニア」代表・瀬戸氏へのインタビュー
■ペット可老人ホーム:「さくらの里山科」施設長・若山氏へのインタビュー

 

ペットの高齢化が飼育者に与えるもう一つの影響が「ペットロス」だ。ペットの寿命が延びるということは、それだけペットと一緒にいる時間が長くなるということだ。飼育者にとってペットと一緒にいられる時間が長くなることは幸せなことであるが、その一方で、ペットを亡くした時の悲しみは強く現れてしまう。悲しみがひどくなると、「ペットロス症候群」として心理的、最悪の場合は身体的な疾病になってしまうケースもある。

ペットロスの克服方法に関しては、「ペットロスとは?症状や克服方法、周りの人の接し方まで」を御覧ください。

 

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