ペット共生社会に向けた「住宅市場」が持つ可能性

2017年7月28日

 

サマリー

  • 近年、1世帯あたりの人数の減少やそれに伴うマンション世帯数の増加が起こっている
  • 一方で、ペット飼育世帯は一般世帯に比べて「賃貸・共同住宅」割合が小さいため、ペットに特化した商品/サービスの提供には大きな需要が見込まれる
  • また、今後加速すると思われる供給過多な賃貸住宅市場では、「ペット特化型」という付加価値を付けることで、他社との差別化要因になり得る
  • ペット飼育世帯向けの商品/サービスを設計するにあたり、共同住宅に多い「隣人トラブル」や賃貸住宅にかかる「修繕費用」の問題に着目するとよい

 

過去15年で世帯構成や住居形態が大きく変化している

近年、1世帯あたりの人数が顕著に減少傾向にある。過去15年間の世帯構成の推移を見ると、単独世帯+夫婦のみの世帯の割合は6.1%上昇しているのに対し、夫婦と未婚の子世帯+三世代にまたがる世帯の割合は8.8%減少している。

世帯構成シェアの推移

住宅_図1

出所:「国民生活基礎調査」(厚生労働省)http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdfをもとに
アイペット損害保険(株)にて作成

世帯構成が変化したことにより、住宅需要にも変化が起きている。過去15年間で、全体に占める一戸建てに住む世帯割合は5.1%減少しているのに対し、マンションに住む世帯割合は9.0%増加している。マンション世帯割合の増加は、耐震構造問題による木造共同住宅(共同住宅その他に含む)需要の減少にも起因していると考えられる。

住居形態シェアの推移

住宅_図2

出所:「国民生活基礎調査」(厚生労働省)http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdfをもとに
アイペット損害保険(株)にて作成

 

賃貸・共同住宅に住むペット飼育世帯は少数

全体集団とペット飼育世帯の住居形態は大きく異なる。全体集団と比較した際に、ペット飼育者世帯の「持家・一戸建て」割合は18.0%大きく、「賃貸・共同住宅」割合は15.7%小さい。このことから、ペット飼育と住宅の間には強い関係性があると言える。

一般世帯とペット飼育世帯の住居形態比較

住宅_図3

出所:「国民生活基礎調査」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.htmlをもとに
アイペット損害保険(株)にて作成
「ペット飼育世帯」は自社調べ(2015)

ペット世帯向け住宅ビジネスは需要がある

全体としてマンション需要が増えている一方で、ペット飼育世帯の賃貸・共同住宅割合が低水準である原因の一つとして、そもそも「ペット可」の物件が少ないこと(供給不足)があげられる。「ペット可賃貸の現状について」によると、東京23区内において「ペット可」である賃貸住宅は全物件の約12%程度に過ぎないようだ。従って、ペット飼育が可能な物件の需給ギャップに着目して、ペット飼育世帯向けの共同/賃貸住宅を検討するのは一つの手だ。さらに、税制改正により節税目的の賃貸住宅が増加することや総世帯数が2019年をピークに減少する見通しである(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」, 2013)ことを考慮すると、長期的には賃貸住宅の供給過多が進むことが予想されるため、今後は付加価値のついた住宅を提供する必要がある。その際に、ペット飼育世帯向けの住宅を提供することで、他社との差別化要因になり得る。

解決すべき課題

近年のペットブームに合わせて、ペット可の共同住宅数が増えた一方で、依然としてペット飼育世帯は一般世帯に比べて共同住宅割合が小さい。この背景には、ペットにまつわる以下の2つの問題があると思われる。

①共同住宅では、鳴き声や臭いを発端とする隣人トラブルが発生する
②賃貸住宅では、退去時に修繕費が高くつく

従って、住環境を提供する事業者は、ペット飼育世帯向けの商品/サービスを設計するにあたり、以下の課題に取り組むことが望ましい。

①「ペット奨励」の住環境づくり
現状の「ペット可」共同住宅の場合、周りの入居者がペットを奨励しているとは限らない。それ故に、ペットを飼育している入居者に対してストレスを抱える住民が発端となりトラブルが発生する。従って、「ペット可」という「許容」的立場を脱した、入居者全員が「ペット奨励」をするような共同住宅にはある一定のニーズが見込まれる。また、マンション世帯の増加というマクロトレンドを考慮しても、取り組むべき重要な課題だと言える。

②部屋の修繕費用減に向けた取り組み
ペットを部屋の中で飼う場合、家具や壁に引っ掻き傷やシミができやすくなるため、賃貸住宅に住む際には修繕費が通常より多くかかってしまう。従って、修繕の手間やコストを減らす強化住宅やグッズの製作には、大きなニーズがありそうだ。

【参考ページ】

ペット可シェアハウスを通じた、静かなる社会貢献(前編)
ペットと入居できるシェアハウスを運営する㈱シーワンにインタビューをしました。

不動産研究の第一人者が説く、猫×不動産ビジネスの新しい可能性
現在の不動産業界の問題や「ペット×不動産」ビジネスの可能性について、株式会社ニッセイ基礎研究所の松村徹氏にインタビューをしました。

ペット可賃貸の現状について
「ペット可賃貸」の現状について述べています。また、「ペット可」にすることによるオーナー側のメリットにも触れています。

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