災害救助のプロ、ピースウィンズ・ジャパンが「殺処分ゼロ」に着目する理由(後編)

2015年11月18日

 

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特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
ピースワンコ・ジャパン プロジェクト
プロジェクトリーダー 大西純子氏


ピースワンコ・ジャパンでは、広島県神石高原町を拠点に、災害救助犬、セラピー犬の育成や、捨て犬や迷い犬の保護・譲渡活動に取り組んでいます。「広島における犬の殺処分ゼロを目指す1,000日計画」を掲げ、2012年以降約500頭の犬を保護し、277頭を譲渡・返還しています。(2015年10月末)

殺処分数ワースト1からの挑戦

ピースワンコ・ジャパンプロジェクトが犬の保護活動に取り組み始めたきっかけは何だったのですか。

災害救助犬の育成をしている傍ら、夢之丞を愛護センターから譲り受けたということもあり、愛護センターで処分されていく犬の数を調べました。そして、広島県の2011年度の犬猫殺処分数が全国ワーストという新聞記事に行きつき、大きな衝撃を受けました。「平和都市広島」と世界に平和を訴えかけている広島が動物の殺処分数に関してはワーストである。これは真剣に殺処分という問題や犬の保護・譲渡という取り組みを誰かがやらなければいけないのではないかと思いました。

そこで、まずは当時愛護センターから配車される定時定点回収の回収場所となっていた、ここ神石高原町から始めようということで、2012年から、神石高原町で引き取らなければならない犬がいる場合、例えば迷い犬や飼い主が飼養放棄した犬、あるいは自分の庭の軒下で生まれた野良犬の子犬などを引き取るということから始めました。

「広島県の犬殺処分ゼロ1000日計画」をされていると伺いましたが、この計画を始められた背景を教えてください。

1000日計画が始まったのは、2013年9月の動物愛護週間からです。2012年から犬の保護活動を始めたのですが、始めた時に、「人間はどこかで期限を持たないとだらだらとやってしまうに違いない、何か計画性を持ってやらないといけないのではないか」と思いました。

2013年にはようやく、広島県の殺処分数も「もしかしたら無茶かもしれないが、頑張れば(ゼロにすることが)不可能な数字ではないのでは」と思える状況になっており、「今、全国ワーストだった広島県に一石を投じれば、広島県から全国に波紋が広がって、広島だけではなく全国の殺処分数を0にするという目標や、保護犬ブームということが全国に広がるのではないか」と思いました。

また、東京オリンピックが決まったことも、私たちにとって追い風となりました。2020年に東京に多くの外国人が来るということで、日本の殺処分の現状を本気で変えなければいけないという雰囲気にもなりました。1000日計画は最初は「無理かもしれない」と思っていましたが、東京オリンピックが決まった時に「あ、ちょっと追い風が吹いた。いけるかもしれない」という実感がありました。

譲渡率50%を可能にした手厚いフォロー

現在ピースワンコ・ジャパンプロジェクトで保護している子たちは何頭ぐらいいるのですか。

現在、約200頭弱を保護しています。これまで保護してきた子たちは延べ500頭ほどです。新しい家族に迎え入れられたり、飼い主の元に戻った子は2015年10月末時点で277頭です。保護された犬の約半数以上が譲渡できています。

最近では、今まで犬を飼ったことのない方が保護犬を迎え入れることを希望して施設に足を運んで下さることも多くなっています。おそらく、私たちが譲渡前にきちんと犬の健康状態を良くし、トレーニングを行い、また飼い主希望者には飼い方トレーニングを行い、家族として迎え入れて下さった後も、アフターフォローサービスではないですけど、「どうですか?」「元気ですか?」「何か問題があったら連れてきて下さいね」と言う風に、電話や対面でフォローすることができるということで、犬を飼うことに対して安心感を持っていただけるからだと思います。

前職でのご経験が今の仕事で生かされている部分はどこですか。

eventもともと私は大阪のテレビ局で働いておりました。当時担当していた番組がNGOやNPOを取材して紹介するというものでしたので、そこで、国内最大のNGOであるピースウィンズ・ジャパンとも出会いました。

情報を伝える、現場感を伝えるという経験は、今生かせていると思います。私たちの取り組みを的確に伝えるということは非常に重要だと思っています。メディア上でないにしても、一対一で話をするという時も、きちんと説明ができるということはすごく大事なことだと思います。これは今までの経験が生きていると思いますね。

 

 

ボランティアではなく、職業として活躍できる場がある

ピースワンコ・ジャパンで働く方はどのような方が多いのですか?

殺処分を0にしたいという思いを持って働くスタッフや災害救助犬を育成したいと思って働くスタッフ、セラピードッグを育成したいと思ってスタッフなどさまざまです。ただ、共通して言えることは「犬と共に働きたい。犬と関わりたい」という気持ちを持っているということですね。

スタッフの多くは動物の専門学校を卒業しているのですが、今の彼ら彼女たちのように、動物に直接関わる仕事ができる人はほんの一握りのようです。私たちの団体はボランティアではなく職業として待遇をしています。全国各地の学生さんから多数ご応募いただいており、大変嬉しいのですが、さらに社会人経験があり、私たちの取り組みに賛同いただける方にも是非メンバーとなっていただき、これまでの社会経験を活かしてもらいたいとも思っています。

私たちがここで保護して大事に育てた犬を譲渡する際に思うことは、やっぱり「今よりも幸せになってほしい」ということです。犬を譲渡する際には、その犬を希望する方の家族がどういう経済状況で、どういうお人柄で、どういう考え方の持ち主かということを審査しなければいけません。それを見極める力は人生経験しかないと思っています。この審査を20歳前後のスタッフで行うのは難しいことだと思います。そのため社会人経験のある方で、手を挙げて下さるなら大歓迎です。

ピースワンコ・ジャパンのスタッフら
ピースワンコ・ジャパンのスタッフら

飼い主のレベル向上が犬の幸せに繋がる

犬の殺処分0という目標はあると思うのですが、その先の目指されている世界観について教えてください。

殺処分0というのは、私たちにとって近い目標ではあるのですが、一通過点でしかないんです。一日だけ殺処分を0にすればいいのではなく、そこからずっと0を継続していかなければいけない。言ってみれば、処分するということをなくさなければならない。じゃあどうしたらいいのかと言うと、「犬を飼うということがどういうことなのか?適正に飼うというとはどういうことなのか?犬という動物とどう付き合うのか?」ということを日本の飼い主さんたちにきちんと理解して、飼ってほしいと思っています。つまり、日本の中で、犬を飼うということのレベルをもっと上げていきたいと思っています。

ドイツでは、国家資格である「動物飼養士」という、動物飼養のプロには必須の資格があります。日本では、現在のところ動物に関する国家資格は獣医師しかありません。今後は日本で、本当の意味での犬を扱える人、それを職業とするトレーナーを育成する学校を作り、犬に特化した専門家づくりということをやりたいと思っています。そうすれば飼い主さんの飼い方も向上する、飼い主さんが向上すれば犬の状態も向上する、そうすればその子が捨てられることもない。犬を迎えることについて知識・技術の向上が必要であり、それを適切に指導できる人が必要である。身近にそういう職業の人がいることが重要だと思います。

飼い主さんだけが頑張るのではなく、ペット業界全体が動物を守り、適切に共生できる社会をつくる。そういう世界を創っていきたいと思っています。

最後になりますが、ペットとの共生環境とはどんな環境だとお考えですか。

犬にとって住みよい環境は、結局は人にとっても住みよい環境になると思います。そして、それこそが人と犬の共生だと思います。

皆さんはよく「ヨーロッパは犬が自由でいいね」とおっしゃるのですが、確かに犬は自由ですが、飼い主にとっては自由ではないのです。飼い主は飼育している犬に対してきちんとトレーニングしなければいけないし、法律を守り登録もしないといけない。もちろん医療行為もしなければいけないなど、動物を飼うということは、飼い主もその責任を果たさなければならないのです。それをより日本の飼い主さんにも実施してほしいと思います。

ヨーロッパでは、犬のトレーニングができているからこそ、犬もレストランに入れる、カフェに入れる、バスに乗れる、電車に乗れる。それは、すべて飼い主の責任が果たされているからできることであると伝えていきたいです。また、飼い主さんのレベルが上がり、犬たちが大人しく電車に乗れる、カフェに入れる、ホテルにも泊まれるとなれば、もっと楽しい犬との旅行ができるだろうし、それによって観光業ももっと盛り上がっていくでしょうから、結果的に日本の経済状況も良くなってくるではないかなと思います(笑)。training2

 

【前編はこちら】

災害救助のプロ、ピースウィンズ・ジャパンが「殺処分ゼロ」に着目する理由(前編)

【関連ページ】

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殺処分の現状について統計データを交えながら考察し、この社会問題の課題提起とその解決を図る先端事例の紹介を行っています。

保護犬シェルターでのボランティア研修
アイペット損保の新卒研修の一環で、ピースワンコ・ジャパンを訪れています。
保護犬との触れ合いを通じて、保護犬の置かれている状況や保護犬シェルターの実状を学びます。

ピースウィンズ・ジャパン概要

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ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は紛争や災害、貧困などの脅威にさらされている人々に対して支援活動を行うNGO(Non-Governmental Organization = 非政府組織)です。

1996年の設立以来、「必要な人に必要な支援を」をモットーにイラクの難民やスマトラ地震の被災者をはじめ、国内・国外の26か国で支援活動をしてきました。

動物関連事業においては、ピースワンコ・ジャパンプロジェクトを広島県神石高原町を拠点に立ち上げ、「広島における犬の殺処分ゼロを目指す1,000日計画」を掲げ活動しています。

また、ピースワンコ・ジャパンプロジェクトでは、捨て犬や迷い犬の保護・譲渡のほか、保護した犬を「人を助ける犬」である災害救助犬やセラピー犬に育成する活動も行い、様々な現場に派遣しています。

名称:特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン

住所:〒720-1622 広島県神石郡神石高原町近田1161-2 2F

設立年月:1996年2月

代表理事 兼 統括責任者:大西健丞

スタッフ数:国内スタッフ46人

海外駐在スタッフ:13人

(2015年4月1日時点)

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