日本における犬猫の殺処分の実態~現状と先端的な解決策

サマリー

  • 年間殺処分数は、犬7,687頭、猫30,757頭である(2018年度)
  • 過去10年間の推移を見ると、殺処分数は約24万頭減少している
  • 殺処分数の減少の背景には、そもそも保健所の引取り数が減少していることと、殺処分率が低下していることがある
  • 現状&今後、引取り数減少・殺処分率低下には行政と民間団体の協力が欠かせない

殺処分の行われ方

殺処分は、各地方自治体が運営する動物保健センターが引取った動物を致死させることを言う。保健センターが動物を引取る状況には、正当な理由をもって家庭から引取る場合や、狂犬病予防員及び捕獲人が捕獲した動物を一時保護する場合等がある。後述するように、保護されている犬猫の8割以上が元の所有者が分からないことから、後者の引取りケースが多いことが推測される。例えば、東日本大震災や熊本地震の際には、飼育者と離れ離れになった犬猫が数多く保護された

引取った動物の収容期間は、狂犬病予防法によると、保護された動物は最低2日間施設に収容し、公示しなければならない。しかし、上限に関しては法によって厳密に定められているわけではないため、予算や人員等の制約により1週間程度で殺処分を行うところもあれば、なかには原則殺処分を行わずに収容し続ける保護センターもあり、様々だ。

現状なされている殺処分の方法は、炭酸ガスによる窒息死や注射による安楽殺等だが、環境省の「動物の殺処分方法に関する指針」に従い、可能な限り「できる限り殺処分動物に苦痛を与えない方法」によって殺処分を行うことが求められている。しかし、殺処分対象動物が多数の場合、コストの観点から炭酸ガスを利用せざるを得ないだろう。従って、収容動物数を減らすことは、殺処分数の減少だけではなく殺処分方法の改善にも繋がるかもしれない。

過去10年の犬猫の殺処分数推移

殺処分は、ペットに関する最も深刻な社会問題の一つで、2018年度の年間殺処分数は犬・猫合計で約3.8万頭(犬7,687頭、猫30,757頭)と言われている(下図)。これは、一日に換算すると殺処分される犬・猫が105頭にのぼるということだ。
とはいえ、10年前(2008年)の殺処分数は約27万6千頭(犬82,464頭、猫193748頭)であるため、殺処分数は約24万頭減少している。

犬・猫別 殺処分数の推移(2015~2018)

 

出所:「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」(環境省)
(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html)
をもとにアイペット損害保険㈱にて作成

 

殺処分が減少している背景

殺処分数が減少している背景には、民間の動物愛護団体が直接ペットを引取る数が増加したことにより、保健所が引取るペット数が減少したことがありそうだ。また、2012年(平成24年)に動物愛護法の改正が行われたことにより、「終生飼養の責務」という趣旨に照らして、保健所は 「可愛くなくなったから」「引っ越しで飼えなくなったから」などの安易な引取りの申し出を拒否できるようになった。

殺処分率は、犬・猫共に減少傾向にある。ここには、行政と民間団体の協力が大きく影響していると思われる。地方自治体が運営する保護センターは、人手・収容能力・経済的制約といった要因のために、引取った動物を保護し続けることは困難だ。さらに、保護センター単独では引取った動物を譲渡する「出口」能力にも限界があるだろう。従って、民間の愛護団体と協力し、動物を保護するキャパシティを増やすこと、そして、出口を増やすことが非常に重要なのだ。このような行政と民間団体の協力は、既に神奈川県や東京都、広島県等で行われており、今後も様々な地方に波及していくことが期待される。

 

引取り前のペットの所在

保健所に来る前のペットの所在のうち、「飼い主から」が占める割合は18.2%であり、残りの8割以上は所有者が分からないという現状がある(2018年度時点)。このことから、近年は、迷子犬・猫、あるいは、捨て犬・猫が、引取られる動物の多くを占めているかもしれない。

引取り前のペット所在内訳(2018)

出所:「犬・猫の引取り及び処分の状況」(環境省)
(https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html)
をもとにアイペット損保にて作成

既述したように、災害時に飼育者が避難所に同伴しないことで、所有者不明の犬猫が数多く保護された前例もある。その事例や対応に関して国が示すガイドラインについて、「ペットのための防災対策において重要なこととは」で詳しく説明しています。

 

今後取り組むべき課題

殺処分数はここ10年程で約24万頭減少したものの、依然として、年間4万頭近くの犬・猫が犠牲になっているのが現状だ。

殺処分問題に関する今後取り組むべき課題は以下の点である。

①引取られるペットの数を減少すること
ペットが保健所に引取られる要因は、飼育放棄や高齢者飼育、あるいは、迷子等の偶発的なものまでさまざまだ。

その中でも最も重大且つ解決し難い問題は、「終生飼養」に反して無責任に保健所や愛護団体に引取らせる飼育者がいることだ。飼い始めた後に苦労するであろうことを考えず、「可愛い」という感情に流されて気軽に飼うことを決断してはいけないはずだ。従って、行政と民間団体が協力して、責任を持って飼育できる人のみがペットを飼い始めることができる環境、及び、飼育者に責任を持ってペットを飼育してもらう環境を作ることが課題である。

一方、偶発的に起こってしまう「迷子」についても、ある一定の対策・対応はできるはずだ。例えば、ペットが迷子になってしまった際にBluetoothで探索できるようなウェアラブルデバイスが発売されているし、マイクロチップの普及啓発も行われている。保健所が引取るペットのうち8割以上が所有者不明である事実からも、迷子対策は重要度が高そうだ。

②引取られたペットを殺処分せずに済ませること
結果として、保健所に引取られてしまったペットが殺処分されずに済むために、保護センターが民間団体と協力して動物の継続的な引上げ活動を行ったり、行政自体が積極的な返還・譲渡活動等を行っていく必要がある。

また、その際には、譲渡後に同じような問題が繰り返されないように、保護されているペットに対して手厚いケアやしつけを行い、健全な状態でペットを送りだす努力が重要だ。

動物愛護団体の取り組みの参考として、「ティアハイムとは~ペット先進国ドイツの動物保護事情」をご覧ください。

 

解決に向けた先端事例

1. 自治体
■神奈川県動物保護センター
「動物ふれあい教室」といった動物との触れ合いによる情操教育や、マイクロチップの普及啓発等を行なっている。ボランティアと協力した取り組みによって、ここ数年間連続して犬・猫ともに殺処分ゼロを達成しています。詳しくは以下をご覧ください。
神奈川県動物保護センターのすべて(前編)~協力者との協奏が生み出した答え
神奈川県動物保護センターのすべて(後編)~殺処分ゼロのその先へ

■東京都千代田区
2016年8月に東京都知事に就任した小池百合子氏が「東京都での殺処分ゼロ」を掲げており、千代田区は「TNTA(Trap, Neuter, Tame, Adopt:一時保護/不妊・去勢手術/人に慣らす/譲渡する)」活動を民間団体と協力して推し進めている。

2. ビジネスとして行なう組織
株式会社シロップ
保護犬猫と飼いたい人をつなぐマッチングサービス「OMUSUBI(お結び)」を提供している。サービスを通して、個人に安心して納得のいくマッチングを提供したり、保護団体が譲渡活動にかける手間を省くといった付加価値を提供することを目指す。(シロップのインタビュー記事はこちら

ペットのおうち
事情によりペットを飼育できなくなった人やペットの保護をしている人と、里親になりたい人が交流できるWEBプラットフォームを提供している。

認定NPO法人 ピースウィンズ・ジャパン
当組織が手掛けるピースワンコ・ジャパンプロジェクトでは、捨て犬や迷い犬の保護・譲渡のほか、保護した犬を「人を助ける犬」である災害救助犬やセラピー犬に育成する活動も行い、様々な現場に派遣している。スタッフには、単なるボランティアではなく、職業として活躍できる場を用意している。(ピースワンコ・ジャパンのインタビュー記事はこちら

NPO法人 東京キャットガーディアン
殺処分数の高い猫に焦点を当て、賃貸マンションに猫がついてくる「猫付きマンション」や、キャットフードや猫砂など日常のお買い物で保護活動に参加出来る仕組みの「ShippoTV」 の運営など、様々な活動を通じて「シェルターから伴侶動物をもらう」 選択肢の認知向上に努めている。

 

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