ペットロスとは?症状や克服方法、周囲の人の接し方について

2018年2月1日

人生において一番辛い出来事は、「大切な人の死」ではないでしょうか。そして、ペットを愛する人にとっては長い間共に生活してきた動物の死もまた、家族や友人の死と同様に辛いものです。飼い主によっては、その悲しみからうつ病等の精神疾患になってしまい、最悪の場合、心臓病等の身体的な病気にまで発展してしまうケースがあります。

このような「ペットロス」、あるいは「ペットロス症候群」が、一体どういったもので、なぜ重症化してしまうのか、どうしたら克服することができるのか、について以下でご紹介したいと思います。

目次

ペットロスとは

「ペットロス」とは、「ペットを亡くした」という飼い主の体験自体やそれによる悲しみのことを言います。そのため、ペットロスは全く珍しいことではなく、ペットを亡くした飼い主であればだれでも経験する出来事なのです。しかし、中にはそういった悲しみが重症化して、心の病や身体的な病気を患ってしまう人もいます。こういった症状を「ペットロス症候群」と呼ぶことがあります。

近年、ペットロス症候群という言葉を目にすることが増えましたが、そこにはペットと飼い主を取り巻く環境の変化が大きく関係しています。昔は「使役動物」として飼われていたペットたちが、時代を経るごとに「愛玩動物」、さらには「伴侶動物(コンパニオンアニマル)」と呼ばれるようになるまでペットの地位が向上しました。加えて、近年の核家族化・少子化といった人間社会の環境変化が重なり、家族としてペットを捉える人が増えています。
こうしたペットの社会的地位の向上に伴い、獣医療やその他ペットサービスが発達したことで、ペットの平均寿命は近年増加傾向にあります。ペットの寿命が伸びれば私たちがペットと共に暮らす時間は増え、その分だけ亡くなった時の悲しみが大きくなるのです。

 

出典:一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」より

ペットロスの際の心理状況や症状

ペットロスが起こると、飼い主は悲しみ、混乱、怒り、罪悪感、否認、抑うつといった感情に陥ってしまいます。中でも、「否認」「怒り」「罪悪感」「抑うつ」の4つは、「ペットの死に伴う感情の混乱状態の中で、認めたり理解することが特に困難な感情、したがって克服が困難な感情」(モイラ・アンダーソン著「ペットロスの心理学」より引用)と言われています。

こうした感情がどのような順序で起こるかについて、キューブラー・ロスという精神科医が理論化しています。詳しくは、「アカデミックな視点から探るペットロスの実態と克服方法」で紹介していますので、是非ご覧ください。
克服が困難な感情
否認 心を苦痛に思わせないために、現実逃避として、事実を否定する状態。
怒り 一時的な気晴らしや満足感をもたらす。怒りの対象は、獣医師、致命的な事故/傷害を引き起こした人物、死因となった病気、ペット自身など様々。
罪悪感 上記の「怒り」で自分自身に怒りを覚えた場合、怒りは心の内面に向かって自責の念となり、罪悪感を作りだす。安楽死を決断しなければならない場合や、死因がはっきりせず、自分が十分に世話や注意をしなかったからだと思いつめる場合に、強く感じられる。
抑うつ 抑うつの範囲は、元気が出ないといった軽い段階から情緒的にマヒ状態となっている重い段階にまで渡る。この感情は、数時間や一日で終わることもあれば、数週間~数ヶ月と長期間続いてしまう場合もある。

中でも、抑うつに関しては、それが起こる原因がペットの死の他にある場合もあります。

人間関係や仕事、はたまた家庭の問題で混乱している時、ペットの存在が心の拠り所になるとお思いの方が多いのではないでしょうか。どんなに辛い時でも、ペットは無条件にあなたを受け入れてくれるからです。こうした「心の堤防」のような存在であるペットを亡くした時に、追い打ちをかけて人間関係や仕事で辛いことが起きた場合、どのようなことが起こってしまうでしょうか。ただでさえペットの死で悲しみに暮れているのに、「心の堤防」がなくなったことで、より深刻な混乱状態に陥ってしまうかもしれないのです。

また、一般的に精神的な病と身体の間には深い関係があるため、身体的な病気に発展してしまう場合もあります。実際に、大切な人の死を期に心臓病の発病やがんの悪化等が起こったケースが報告されていますし、歌手のジュディ・オングさんは愛犬の死によって幻覚や時間間隔の喪失といった精神的な症状から、血圧・コレステロール・尿酸といった様々な数値の悪化にまで影響が及んだそうです(livedoorNews記事より)。

ペットロス症候群が重症化してしまう要因

本人の問題

pet-loss2上でお話しした4つの感情は、克服が困難であるものの、誰しもが直面してしまうものです。しかし、その感情のまま誤った方向に向かってしまうと、ペットロスの症状が回復しないばかりか、重症化して克服が難しくなることもあります。

例えば、「怒り」をペットの死の原因に対してぶつけることで、それが悲しみを乗り越える原動力になることがありますが、怒りを建設的な方向に向けずに一人で抱え込んでしまうと、無力感を感じて回復の妨げになってしまいます。また、「窓を開けっ放しにしてたから(死なせてしまった)」等と「罪悪感」を感じているのに、今後もその至らなかった点を正さない場合、それ自体も「自分がダメだから、正せないのだ」と自虐してしまうかもしれません。

本人を取り巻く環境の問題

取り巻く環境に関する問題の中でも最も大きな要因は、「周囲との間の価値観の不一致」です。ペットに対する考え方は、ペットの飼い主と非飼い主で大きく異なると思いますが、中でもペットロスの時の悲しみの度合いは、ペットの飼い主間でも違いがでます。

ペットロスで自分がひどく悲しんでいるのに、家族や友人から精神面の支えを得られなかった場合、ペットの死に対していつまでも泣いていることを恥だと感じて、「泣く」「落ち込む」といった感情のリアクションを我慢してしまうかもしれません。しかし、我慢をすることは一時的な逃避にはなりますが、悲しみの解決には至らないため、苦しみがトラウマのように一生付きまとうかもしれません

亡くなり方やタイミングの問題

ペットの亡くなり方やそのタイミングは、ペットロスが深刻になる原因の中でも、飼い主の力で避けることが難しいです。例えば、ペットが事故や病気で急死してしまった場合、ペットの死に対する心の準備ができていた人よりも、ペットロスによる悲しみが深刻になりやすいです。たとえ日頃から愛情をもって接していても、少なからず「〇〇しておけばよかった」という後悔を感じてしまうのです。

また、ペットの死が家庭や仕事等における辛い時期と重なってしまった場合、ペットロスが長引いてしまうこともあります。上でも説明した通り、それまでその人の「心の堤防」だったペットが亡くなることで、より深刻な抑うつ状態に陥ってしまうかもしれません。

ペットロスを克服するためには

これまで紹介してきたような症状やそれらを重症化させてしまう要因に対して、どのような予防・対処をすべきかを、ペットが亡くなる前と後の各段階に分けて紹介します。

生前にできること

今現在ペットを飼っている方や今後飼い始めようとしている方は、日頃からペットの健康やケガに気を付けるのが良いでしょう。「気付いた時には余命数ヶ月」「不注意で事故にあう」ということは人間でも動物でも同じように起こることなので、定期的な検診や保険加入、適切な飼い方や飼育環境づくりをすることが重要です。

また、溺愛しすぎないことも大切です。これはペットに限ったことではなく、人間の子どもに関する親バカぶりが社会的な問題として取り上げられることも最近多いでしょう。過度な溺愛は子ども(あるいは、ペット)への依存関係に陥るため、その対象を亡くした時の悲しみが深刻になってしまうのです。

死後にできること

pet-loss3ペットの死に直面し、悲しみや苦しみでどうしようもなく辛い時には、無理をせず、悲しみのままに悲しむことが、ペットロスを克服する上で最も重要です。飼い主の中には、身内や友人のペットロスに対する無理解を感じ、彼らの前で悲しみを表すことに気まずさを感じてしまう人が多くいらっしゃいます。しかし、自分の感情に嘘をついても一生トラウマとして亡くしたペットに対する感情が付きまとってしまうでしょう。したがって、悲しいときは感情のままに思いっきり泣くことが一番なのです。

それと同時に、信頼できる人や有識者と話をするのも良いでしょう。はじめのうちは、誰かに悩みを打ち明けることに抵抗を感じてしまうと思いますが、ペットロスを経験したことのある人や気の知れた友人と話すことで、有益なアドバイスをもらえたり、なにより、孤独感を感じなくて済みます。

新しいペットを飼い始めることも、ペットロスの悲しみを癒す一つの手です。実際に、アイペット損害保険㈱が行ったアンケート調査によると、ペットを失った人がその悲しみを癒すきっかけとして一番多かったのは新しいペットを飼うことでした。また、新しいペットを早く飼い始めた人は、遅い人に比べて早くペットロス症候群の症状が治まる結果が出ています。とはいえ、悲しみがひどい別れの直後に無理をして新しいペットを飼い始めても余計に症状を悪化させてしまうこともあるので、タイミングを見誤らないように気をつけましょう。

ペットロスの悲しみを癒すこととなったきっかけ

出所:アイペット損害保険㈱ アンケート調査

ペットを喪失してから体調や気持ちの面で現れた不調の期間

 

出所:アイペット損害保険㈱ アンケート調査

また、しっかり供養することも効果があります。ペットが亡くなった直後はパニック状態に陥っていますが、葬儀やペットの持ち物の整理をする中で、ペットの死を現実として受け止め、混乱した気持ちを整理することができます。

アイペット損害保険㈱の調査によると、44%の人が老衰を理由としてペットとお別れしているそうです。老衰によりご自宅でペットを看取られた場合、「自宅でペットを看取った際にするべきこと」を参考に、供養をしてあげてください。

 

さらに、1日の過ごし方を変えてみるのも一つの手です。ペンシルベニア大学でカウンセラーをしていたジャミー・クオッケンブッシュは、ペットロスによって1日の決まった時間に強い抑うつ状態になってしまう飼い主が多いと指摘しています。生前ペットと共に過ごしていた時間は、ペットの死後に穴となって意識されてしまうため、1日の過ごし方を変えることによってある程度その穴をふさぐことができます。

この他、「経験者から学ぶ|ペットロスから立ち直る人/立ち直れない人」ではペットロスの経験者による体験談やアンケートからペットロスから立ち直る人・立ち直れない人の違いをご紹介しています。

ペットロスの人が周りにいたら

pet-loss4自分の周囲の人がペットロスになったとき、どのように接したらよいでしょうか。自分がペットロスを経験しているわけではないので、少なからず戸惑ってしまう方が多いでしょう。ペットロスの人を励ますときには、一般的に以下のようなことに気をかけると良いです。

■一緒にいて、心の支えになる/(話せる状況になったら)亡くなったペットの話を聞いてあげる
■相手の価値観に合わせ、相手が心から悲しめる状況にする
■ペットの死後の手続きを手伝ってあげる 等

一番大切なのは、ペットロスに関する周囲とのギャップを感じさせないことです。本人自身ができる最も効果的な克服方法が、無理せず悲しむがままに悲しむことなので、それができるような環境を作ってあげることが一番の手助けなのです。

また反対に、ペットロスの人に「してはいけないこと」も知っておく必要があります。

■すぐに新しいペットを勧めない
■何らかの行為を強制させない
■安易な言葉で慰めない

新しいペットを飼い始めることで、ペットロスの悲しみが和らぐこともありますが、まだ亡くなってから1ヶ月もしないような早い時期に新たなペットを迎えると、そのペットを憎しみ、愛せなくなってしまう可能性があります。安易に「また、新しいペットを飼えばいい」といった言葉をかけることは、相手に価値観の違いを感じさせてしまうことにもつながるので、絶対やってはいけないことです。

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【参考文献】

■モイラ・アンダーソン(2001)「ペットロスの心理学」.メディカルサイエンス社
■小此木啓吾(2003)「対象喪失 悲しむということ」. 中央公論新社
■横田晴正(2013)「ありがとう。また逢えるよね。」.双葉社