イメージから動物保護事情を変えていく~国内外の事例紹介
あなたは「動物保護」「保護センター」等のキーワードを聞いた時に、どのようなイメージを持たれるだろうか。恐らく、多くの人は飼育者に捨てられたり、離れ離れになってしまった「可哀想な」動物たちを保護すること、あるいは、保護されている場所、だと思い浮かべるだろう。依然として、海外と比べて日本では、保護センターから犬や猫を引取る人の割合は小さく、その普及阻害要因の一つとして、動物保護に対する暗いイメージが関係しているかもしれない。今回は、イメージを変えることによる効果であったり、実際に明るいイメージを持たせるための事例についてご紹介する。
「コカ・コーラ」に見るイメージの効果
まず、イメージがどの程度商品や出来事に影響を与えるのか、一般的な例を見てみよう。イメージ戦略の成功例と言えば、「コカ・コーラ」が有名だろう。
これまでコカ・コーラ社は、メイン商品である「コカ・コーラ」のキャッチコピーに「さわやかになるひととき。」や「ハッピーをあけよう。」等を採用することで、「コカ・コーラを飲むとさわやかな気分になる/幸せになる」といったイメージを広めてきた。実際に、スッキリしたい、元気になりたい時などにコカ・コーラを飲みたいと思う方もいらっしゃるだろう。
コカ・コーラの競合であるペプシコーラは、これまで目隠ししてコカ・コーラとペプシコーラを飲み比べる「ペプシチャレンジ」を何度か行ってきた。味のみで競うそれらのテストではペプシに軍配が上がったようだが、依然としてコカ・コーラが世界的に大きなシェアを有することから、上述したイメージが非常に重要であることが伺える。
実際にイメージチェンジにより譲渡活動に効果があった事例
以上の通り、イメージはその商品や出来事に対して大きな影響を与える。実際に、海外の動物保護の現場では、結果に繋がった事例が既にいくつか確認されている。
一つ目は、アメリカの「ピットブル(Pit Bull)」と呼ばれる闘犬用に改良された犬の里親探しに関する事例だ(参考:TABI LABO記事)。近年、凶暴性が抑えられたピットブルも登場しているものの、依然として世間のピットブルに対するイメージは「凶暴」「荒々しい」といったものが強く、敬遠されることが多いようだ。ペットとして飼われたピットブルが面倒を見切れずに捨てられてしまうケースもあるようで、殺処分の問題が存在していた。
これを問題視したフランス人のフォトグラファーSophie Gamandさんは、ピットブルのイメージを「荒々しい」ものから「可愛らしい」ものへと変えるべく、花と一緒にピットブルたちの写真を撮り、その写真をシェルターに無償で提供する「Pit Bull Flower Power」プロジェクトを行った。その効果は絶大だったようで、紹介記事によると、その後600匹以上のピットブルに里親が見つかったようだ。
二つ目の事例もまた、アメリカの動物保護センターに収容された犬の里親探しに関してだ(参考:the dodo記事)。Mark Imhofさんは、その昔保護犬を譲り受けに保護センターへ行った際に、その伸びきった毛等に関して「dirty(不潔な)」と感じた経験があったという。この経験がきっかけとなり、彼は自らトリミングのスキルを身につけ、保護センターの犬達を無償でトリミングするようになった。
最初に彼が担当した犬は、元々行儀の問題から「unadoptable(里親を見つけるのが難しい)」リストに入れられていたが、トリミングの効果があったのか、無事新しい家庭に引取られていったようだ。Mark Imhofさんは、「人が髪が乱れた状態で仕事に向かったら、恐らく(保護犬と)同じように行儀が問題になるでしょう」と述べており、人間と同じように保護犬にとっても第一印象(イメージ)が重要であることを示唆している。
その他国内外の事例
ペット先進国イギリスの動物保護団体には、施設や行為の呼び名に関して、より温かい印象を受ける工夫がなされている。
例えば、日本では多くの場合、保護犬猫を新しい家庭に引き渡すことを「譲渡」と呼ぶところが、イギリスの代表的な保護団体「Dogs Trust」や「Battersea Dogs & Cats Home」等では「Rehoming」と呼んでいる。
また、上記2団体は、保護施設のことを一般的に用いられる「Shelter」と呼んでおらず、「Home」といったより温かいイメージを持つ呼び方が使用されている。このような、細かい一つ一つの点が、全体として保護施設のイメージを明るくしているのかもしれない。
さらに、日本においても、暗いイメージが持たれがちなペットに関して、イメージチェンジを図る事例が存在する。
「保護猫カフェ」を運営する株式会社ネコリパブリックは、猫エイズにかかっている猫を「りんご猫」と呼んでいる(参考:ブログ記事)。「エイズ」というキーワードを聞くと、人間の病気を想起して、どうしても多くの人はマイナスなイメージを持ってしまうかもしれない。実際に猫エイズにかかっている猫は、「人間に移ってしまうのでは」「すぐ亡くなってしまうのでは」と考えられてしまい、譲渡活動がなかなかうまくいかない現状があるようだ。しかし、現実には人に移るような前例はなく、また、発症せずに15~20年の寿命を全うする猫もおり、マイナスイメージだけが独り歩きしているのだ。
これを問題視したネコリパブリックは、人間のエイズキャンペーンのテーマカラーである赤、アダムとイブのりんごに見る禁断という印象、そして可愛らしさを兼ねた「りんご」を使用して、猫エイズにかかっている猫を「りんご猫」と名付けた。「禁断の猫でもかわいくて飼いやすいというイメージをもってもらうために」という想いが名前に込められており、イメージチェンジによる効果が期待される。
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