保護犬・保護猫を迎える文化を日本につくりたい。若き起業家の挑戦
共同創業者 兼 代表取締役社長 大久保 泰介氏:
同志社大学経済学部卒。大学在学中に英・ロンドンでサッカーをする傍ら、ユニクロで+Jプロジェクト等のプロモーション業務に携わる。グリー株式会社にてグローバル・新卒採用プロモーション、採用戦略、財務管理会計を経験。日本は人とペットが一緒に暮らしづらい環境であることを実感したことがきっかけで2015年、株式会社シロップを設立し、代表取締役社長に就任。
同社ではペットとの思い出保存アプリ「HONEY」、認定医獣医師をはじめとした動物に関わる専門家が執筆するメディア「ペトこと」の運営をしている。2016年12月には、保護犬猫と飼いたい人をつなぐマッチングサービス「OMUSUBI(お結び)」の提供を開始した。
保護犬猫は本当にかわいそうな存在なの!?譲渡会で感じた疑問を形にしたサービスとは
保護犬猫とのマッチングサイト「OMUSUBI(お結び)」の開発のきっかけを教えてください。
「OMUSUBI(お結び)」は保護犬猫とのマッチングサイトですが、その前身となったのは、5月に開催した保護犬とのふれあいイベント「PET RIBON CAFÉ」でした。
このふれあいイベントは、昔私が譲渡会を訪れたときに経験した、ある出来事がきっかけになっています。それは、譲渡会に訪れた人々から漏れる「かわいそう」という声でした。譲渡会にいる犬猫も、ペットショップにいる犬猫同様、「新しい飼い主を待っている」という状況は変わりません。譲渡会の犬猫とペットショップの犬猫で、一体なにが違うのでしょうか?
ちなみに海外では、保護施設などで保護されている犬猫を里親として迎える習慣が根付いています。日本では、悲惨で可哀想なイメージがついてまわる保護施設ですが、海外ではペットショップ同様、「新たなパートナーと出会える場所」という認識が一般的なのです。
現在、保護犬だったコルクを飼っていますが、「PET RIBON CAFÉ」で出会ったことがきっかけでした。保護施設のイメージを変えることができれば、譲渡会でもより幸せな出会いを増やせるのではないか、と思いました。私にできることを考えた結果、インターネットの力で保護活動をされている方々を支援し、保護犬猫のイメージを変えていきたい、という結論に達しました。保護活動をされる方は、多大な労力と経済的負担を背負いながら犬猫を保護して預かり、育てています。保護した犬猫のお世話に多くの時間が割かれてしまうため、保護犬・保護猫の情報発信に使う時間はほとんど取れません。
彼らにとって必要な、でもなかなか工数を割けない集客の部分であれば、私の今までの経験を活かしてお手伝いができるのではないかと考えました。こうして飼い主さんと保護犬猫のマッチングサイト「OMUSUBI(お結び)」が誕生したのです。
満足度の高いマッチングにするため、むやみに登録団体を増やさない。
開発にあたってこだわった点はありますか?
数ある保護団体の中から、資金繰りや動物の管理が適切にされている団体を個人で見極めることは簡単ではありません。だからこそ、飼い主が安心して健康な状態のペットを迎え、納得いくマッチングができるよう、保護団体の選定にこだわっています。現在は13団体が登録されており、徐々に増やしていく予定です。規模を拡大するためにも、団体を登録する基準を明確にしていくつもりです。
また、「OMUSUBI(お結び)」がホームページの役割を担うことで保護団体の方が譲渡活動に専念することができ、サイト運営の作業をしなくても情報発信や譲渡が行える状態を目指しています。当社はインターネットを通じた団体支援によって殺処分の問題解決に関わりたいと思っています。
シロップが「ビジネス」として殺処分問題に向き合う理由
シロップが「ビジネス」として殺処分問題に向き合う理由を教えてください。
保護活動をされている方の中には、純粋なボランティア精神で行っているため「ビジネス」という言葉を敬遠される方も少なくありません。しかし、殺処分を根本的に解決しようとするのであれば持続性のある活動を行う必要があると私は考えています。保護活動をされる方は、多大な労力と経済的負担を背負いながら犬猫を保護して預かり、育てています。想いだけで何かを削りながら運営をするのではなく、活動を持続させるためにも、しっかりとマネタイズをして、ビジネスを通じて社会貢献をすることが大切だと思っています。
「OMUSUBI(お結び)」は、どのようにマネタイズをしているのですか?
譲渡が成立すると、ユーザーは保護団体に「譲渡負担金」として団体が指定した金額を支払う必要があります。「OMUSUBI(お結び)」はそれに加えて「保護犬猫あんしんパック」の料金として、一律1万円をいただく仕組みを設けています。あんしんパックの内容は、無料のネット相談や外部サービスの特別クーポン利用、協賛企業からのグッズ提供、そして提携する動物病院やサロンでの割引利用などです。さらに価値を感じていただけるよう、サービスの拡充は随時行って行く予定です。
ロンドンで見た光景と社内コンテストが重なって・・・
そもそも、なぜペット事業で起業しようと思われたのですか?
起業のきっかけは、前職で新規事業コンテストに出場したことでした。役員の前で発表ができるという貴重な機会であり、上手くいけば事業化することも夢ではありません。もともとペット事業に興味があったので調べたところ、成長マーケットである一方、ペット業界の課題が気になりました。
ペットに関心を寄せるようになったきっかけは、ロンドンに留学をしていた時、社会全体でペットを受け入れている環境が整っていたことを目の当たりにしたことでした。例えば、ペットと一緒に入れるレストランがたくさんあったり、ケージに入れなくても公共交通機関に乗車できたり、広々とした公園ではノーリードで散歩できたりします。その背景として、しつけをきちんとする習慣があり、ペットオーナーもそうでない人も気持ち良く生活することができます。
また、英国やドイツでは、飼養環境の基準が厳しいためペットショップがほとんど存在せず、ブリーダーや保護施設にいる保護犬猫を迎えることが一般的です。そういったペット流通の文化の違いもあって、保護犬猫の存在が身近です。コンテストの準備を進めていくうちに、「しあわせな犬猫を増やしたい」という想いと留学中の経験が重なりました。
あと一歩のところで事業化には至りませんでしたが、諦めきれなかった私は、先輩の温かい後押しもあって起業に踏み切ることにしました。起業を決意してから会社を設立するまでにベンチャーキャピタルを10~15社あたって資金調達を試みた結果、現在の出資会社に出会うことができました。
目標は、ペット版の「ゆりかごから墓場まで」
「OMUSUBI(お結び)」が譲渡後の飼い主のサポートに力を入れている理由を教えてください。
正しい飼い方を知る飼い主を増やすことで、殺処分数の減少に繋げたいと思っています。初めてペットを飼う場合、ペットへの接し方に戸惑う人は決して少なくないと思います。私は譲渡会で出会った保護犬「コルク」を迎えるまでは自分が飼い主となってペットを飼育した経験がなく最初は戸惑いましたが、周囲の助けもあってコルクと幸せな生活を送っています。自分の苦労した経験があるからこそ、サービスを通じて飼い主に正しい知識を提供し、幸せに暮らす犬猫を増やしたいと思っています。
現在、3つのサービスを提供していますが、いずれはシナジー効果を持たせて「ゆりかごから墓場まで」ペットの一生に寄り添ったサービスを提供していきたいです。ペット産業に参入してみて、飼い主との接点を作る一方、サービスを使い続けていただく仕組みを作ることが重要だと分かりました。将来的には、「OMUSUBI(お結び)」が犬猫と出会う場となり、「ペトこと」を読んでしつけを学び、「HONEY」を通じて思い出を共有していただけたら嬉しいです。
今後の展望をお聞かせください。
今後は業界を問わず、この活動に共感いただいたさまざまな企業と協力していければ嬉しいです。企業にとってはCSR活動の一環となりますし、ペットを飼い始めた飼い主との接点作りになるでしょう。実際、譲渡活動に関心を寄せていてもどこの団体を支援したら良いのか分からない企業も多いと思いますので、私たちのサービスが企業と団体を繋ぐ懸け橋となることも望んでいます。事業を通じて日本に「保護犬猫を迎える文化をつくりたい」と思っています。
法人名 :株式会社シロップ
住所 :東京都渋谷区広尾3-17-7
設立年 :2015年
代表者 :代表取締役社長 大久保 泰介