「ペットビジョン」がペット業界のインフラを担う理由
ペットゴー株式会社
代表取締役社長 黒澤弘氏
大学卒業後、住友商事へ就職。2000年よりマッキンゼー・アンド・カンパニーにてIT分野の経営コンサルティングや新規事業関連プロジェクトに従事。2004年にペットゴー株式会社を設立し、現在に至る。ペットの医薬品や、ペットフード、ペット用品を販売する通販サービス「ペットビジョン」等を運営。
原点は、地元のインフラを担った実家と愛犬と過ごした少年時代の記憶
ご実家は、事業を営まれているのですよね
実家は、秋田県大館市という人口7万人ほどの小さな都市にありまして、曾祖父の代から地域の小売店へ商品を卸す日用品雑貨の問屋を営んでいました。戦後の街の復興を企業という立場で支えてきたので、自分の家から小売店を経由して町中に物資が行き渡っていく様子が幼心にとても印象的でした。
大館市はハチ公の故郷として知られている場所で、秋田犬のたくさんいる地域です。今の都会とは飼育環境がだいぶ異なっていて、自由に野原を駆けめぐるなどのびのびと過ごせるところなのですよ。小学生の頃から、「ジョン」という犬を飼っていました。ジョンもフードではなくて、比内地鶏を食べるような子で、元気に野原を走り回っていました。
残念ながら大学生の頃にジョンは亡くなってしまったのですが、今でも心の中に強く残っています。ペットゴーが掲げている「ペットライフをハッピーに 世の中をあったかく」という理念は、社会を会社が支える、という現象を幼い頃から見てきたことや、ジョンとのたくさんの想い出とつながっています。
そして事業を通じて、日本を元気にしたい。事業を興すことで雇用を創出することも非常に大事なのですが、それだけではなく、他の作用もある。例えば私が田舎から出てきて東京で起業をし、事業を営んでいることで地元の同級生達も奮起してくれたりするわけです。当社のスタッフもご家族や周囲の人たち、たくさんのお客様から励ましの声をいただくことがあります。そうした「根っこ」というか、人々や社会を元気にさせる取り組みがたくさんあってこそ豊かな社会、元気な日本が実現できるのではないかと思っています。
生い立ちと今携われている事業が深くつながっているのですね。
そうですね。少し大げさな言い方かもしれませんが、実家の問屋はいわば「7万人の生活を支えるインフラ」として機能していました。人々の生活にとって欠かせない存在になっていましたので、ペットゴーもそうした存在でありたいと常に考えていますし、ペットと飼い主の生活を豊かにすることを追求していきたいと思っています。
東日本大震災の際には、会社をあげて、ペットと飼い主の方のために何かできることがないかと考えました。一般社団法人 Do One Goodの皆さんといっしょに被災地へ行き、仮設住宅に住まわれる方一人一人にお話を聞き、何に困っているか聞いて回りました。
そこで話にあがったのがペットフードだったのです。いつも食べているペットフードを買っていたペットショップも、動物病院もなくなってしまった。災害支援でペットフードも届いていたようなのですが、口にしてくれないというペットもたくさんいました。そこで、ペットが普段何を食べていたのかを教えてもらい、同じペットフードを調達して寄付することにしました。ペットゴーならではのサポートを追求し、ペット一匹一匹に合ったものをあげるのが一番良いだろうと考えました。
データの蓄積が良いサービスや商品開発へと繋がる
ペットゴーでは具体的にどんなビジネスをされているのでしょうか。
ペットのドラッグストア「ペットビジョン」を通じてお客様に自社サイトから直接商品を販売するモデル、ヤフーさん、アマゾンさん、楽天さんというところにテナント出店をして販売をするというモデルの他、当社のプラットフォーム(モール)へ他社様にも出店いただくモール事業があります。加えて、ペット関連企業様から飼い主向けの販促支援・調査等を委託され消費者の実態をお伝えする事業と、ペット関連のシステム受託開発も一部行っています。
事業を行う中で、創業当初から意識しているのが、「ペットデータの蓄積」です。どの種類のペットがどこに住んでいて、いつ何を購入しているのか。飼い主さんであれば動物病院にも行くし、あとは、トリミングサロンにも旅行にも行くなど、いろいろなサービスを利用されるわけです。
企業様向けの販促支援や調査サービスの提供はクックパッドさんやアットコスメさんなどもされていますが、私たちには「ペットの飼い主と企業の間の情報格差をなくす」という意味合いがあります。ペットの世界は、消費者と企業間の情報格差が大きく、企業が消費者のことをより正確に深く知ることで、より良い商品開発やサービス提供もできると考えています。
ペット事業以外には広げない!お客様から温かいお叱りを受けていた
「公(おおやけ)」のためという意識を強くお持ちだと感じるのですが、ペット関連事業以外への進出はお考えですか?
そのつもりはありません。我々が最も大切にしている考え方の一つに「誰を相手に業(商売)をするのか」ということがあります。ペットゴーではやはりペットにこだわっていきたい。
語弊があるかもしれませんが、女性、子供、高齢者といったいわゆる社会的弱者の中でも、ペットは特に弱い立場にあると思っています。なぜなら、ペットは話すことができません。そういった意味ではペットは種類も多く、宇宙人に近いですね。すごく面白い世界です。面白くて愛着があって、そういった意味での対象としては非常に魅力的です。数年やって飽きるようなものを業とするわけにはいかないので、生涯をかけて自分の情熱や愛を投じられる対象であるペットを相手にした業をしています。
それに女性、子供、高齢者向け事業は既に取り組まれている企業がいたことも大きい。他の人がやっていることならペットゴーがやる必要というか、使命感を感じられませんでした。ペットは人間にとってなくてはならない存在ですから、そこをどうにかするのが我々の使命ではないかと考えています。
実は、過去に一度だけペット用品ではなく、飼い主向けの人間の商材を浮気心で扱ったことがありました。その時には、お客様から「なぜ人間用の商品を扱うのか。ペットゴーはペットのための会社ではなかったのか。変に多角化しないでいい」というお声を多数頂戴しました。正直我々も驚いたのですが、自分達の存在意義を考え直す上で、非常にありがたいお言葉だったと感謝しています。
今は「ペット×IT」という切り口で、ペット業界にイノベーションを生み出し、「ペットライフをハッピーに 世の中をあったかく」していくことが我々の目標です。
正解は分からない。だから、リスクを負っても「最善策」を講じてきた
沿革を拝見すると、先進的な取り組みにいち早く着手されている印象を受けます。何か理由があるのでしょうか。
沿革
2004年11月 – ペット×ITに特化したベンチャーとしてペットゴー株式会社を設立
2005年2月 – ペット用品専門オンラインショッピングサイト「ペットゴー」をオープン
2005年3月 – 「ペットゴー楽天市場支店」をオープン
2005年4月 – 「ペットゴーヤフーストア支店」をオープン
2007年3月 – 「ペットゴーモバイルサイト」をオープン
2007年4月 – 「ペットゴーアマゾン支店」をオープン
2007年8月 – 神奈川県愛甲郡にペットゴー厚木基地(物流センター)をオープン
2008年3月 – 動物病院「ペットビジョン」を吸収合併
2008年10月 – 屋号を「ペットゴー」から、ペットのドラッグストア「ペットビジョン」へ変更
2009年10月 – ペット保険で通販ポイントが貯まる「ペットビジョンのペット保険」をスタート
2010年3月 – 神奈川県厚木市にペットゴー厚木基地(物流センター)を移転
2010年4月 – 「飼い主さんのドラッグストア」オープン・PBサプリ新発売
2010年8月 – 「ペットビジョンスマホサイト」をオープン
2010年10月 – Twitterでの情報配信をスタート
2011年4月 – 当日発送サービスをスタート
2011年5月 – Facebookでの情報配信をスタート
2011年6月 – ケーブルテレビ・CSでのTVCMの放映をスタート
2011年10月 – 第9回「デロイト 日本テクノロジー Fast50」 において35位を受賞
2012年2月 – 「東日本大震災たすけあいペットプロジェクト」をスタート
2012年10月 – 第10回「デロイト 日本テクノロジー Fast50」において22位を受賞
2012年12月 – 第11回「アジア太平洋地域テクノロジーFast500」で432位を受賞
2013年1月 – 出荷100万件を突破
2013年2月 – 新宿区優良企業 優秀賞を受賞
2013年3月 – ペットビジョンメール便をスタート
2013年4月 – ペットビジョン定期便をスタート
2013年5月 – 愛犬愛猫の写真でつながるSNS「ドッグゴー」「キャットゴー」をオープン
2013年6月 – 犬猫の薬の投与日をメール告知する「投薬お知らせサービス」をスタート
2013年7月 – ペットのショッピングモール「ペットビジョンモール」をオープン
2013年8月 – YouTubeに「ペットビジョン」の専用チャネル開設
2013年10月 – 第11回「デロイト 日本テクノロジー Fast50」において29位を受賞
2013年12月 – 第12回「アジア太平洋地域テクノロジーFast500」において356位を受賞
2014年4月 – ペットのドラッグストア「ペットビジョン」アマゾン店でFBAを開始
自分達では、スピードが速いとは全く思っていません。その時々で、最善と考えられる策を打ってきただけで、結果としてうまくいったことも、うまくいかなかったことも多々ありました。ですから、後から振り返ってみると「企業としての実験」のような意味合いもありました。
一番大きな影響があったのか、「ペットビジョン」の吸収合併です。それまでに手広く商材を扱ってきたところを、動物病院専門商品に絞って商品を販売していくことで、会社として大きく成長することができました。
やってみないとわからないことが多いですから、これからも実験・チャレンジは続けていきます。
飼い主としての視点を保ち続けることのできる理由は、ジョンの存在
最後に経営をされる中で、心がけていることを教えてください。
繰り返しになりますが、「誰を相手に業(商売)をするのか」を大切にしています。先ほど消費者の方からの叱責についてお話しましたが、ペットの飼い主の方々は、本当にペット想いですから厳しい目線をお持ちです。株主の方々より、よっぽど厳しいです(笑)。
飼い主の方々にとっては、ペットゴーやペットビジョンが成長するかなんてどうでもいいことなのです。ペットのことだけを想っているのです。このことは絶対に忘れてはいけません。実際、私はペットビジョンも他の事業も、ペットゴーという会社自体も、「ペットライフをハッピーに 世の中をあったかく」という我々の理念を実現するための手段でしかないと思っています。
そのような原理原則を理解しているか否かで、長期的に見た企業の生存確率が大きく変わってくるはずです。
あとは、何かやろうとする度、ジョンは満足してくれるのだろうかと彼の姿がいつも頭をよぎります。ジョンが私の心の中にずっと住んでいて、いつも私たちを見ているような気がするのです。
従業員:39名(平均年齢34歳)(2015年3月末時点)
事業内容:ペット用品のネット通販(B2C)で蓄積したペットデータをペット関連企業の販促や調査等に活用(B2B)
・ペットのドラッグストア「ペットビジョン(PET VISION)」の運営
・ショッピングモール「ペットビジョンモール(PET VISION MALL)」の運営
・ペット関連企業へのマーケティング支援サービスの提供等
会員数:255,285人(2015年9月末時点)
受賞歴:第12回「
過去3年間の収益(売上高)成長率の高さが評価基準となる。