老犬ホームは犬を「捨てる」のではない、「預ける」場所である

2015年10月7日

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リブモ株式会社
代表取締役 森野 竜馬氏
1969年生まれ。2001年より株式会社ネクストに入社し、住宅・不動産ポータルサイト「HOME’S」の企画、運営に携わる。2007年より同社取締役執行役員に就任。2014年にリブモ株式会社を設立し、現在に至る。老犬介護情報サービス「老犬ケア」を運営し、電話・インターネットで老犬介護に関するさまざまな相談を受けるほか、老犬ホーム(老犬介護施設)の斡旋事業を行う。

 

東証一部上場企業の取締役が起業をした理由

なぜ株式会社ネクストの取締役を退任して、起業されようとお考えになったのですか?

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自営業者の父と母の間で育っち、その月の売上に応じて日々の生活が決まっていくというような、言ってみれば「未来が約束されていないことが当たり前の世界」というものを小さいころから身近に感じてきました。ですので、毎月決まったお給料が出る生活に違和感があり、それとは違う働き方をしたいという考えが以前からあったような気がしています。

また、私の両親はもう70歳近いのに、いまだに現役で働いているのですよ。それも昼は家具の卸売り、夜は酒場という、二毛作のような感じで働いていて、そういう両親に憧れがありましたね。たまに実家の酒場に飲みに帰るのですが、そこでお店の常連と仲良く飲みながら商売をしている両親の姿を見て「ああ、年を重ねてもこういうふうに仕事で人と繋がっているってすごくいいなぁ」と思っていました。

このような家庭で育ったものですから、起業への思いは最初に就職する時からありましたね。
30歳で起業しようと思って1回会社を辞めたのですが、ちょうど「インターネット」が普及してきたので、「今後、一個人が世の中に情報を発信していく時にこのインターネットはものすごく大事になるだろう」と思いました。それで「インターネット業界を自分の肌で感じよう」と思って入社したのが、ネクストだったわけです。

転職の際に奥さまから反対はされなかったのでしょうか?

実はネクストへの転職と結婚が同じタイミングだったのです。結婚してすぐにネクストに転職して、その時に「俺5年か10年で仕事やめるから。独立するから」と伝えたのですが、妻は「いいよ」って言ってくれました。結構勇気ある女性だと思いませんか?その時は5年か10年以内でネクストを辞めて起業しようと思っていたのですが、始めてみると、意外と住宅やインターネットは面白く、夢中になってしまい気づいたら10年以上経ってしまいました。私が40歳になった時でしょうか、ある時妻に「あなた、このままでいいの?」と言われて、「いけない、いけない。自分は何をやっているのだろう。」と自分がずっと考えていた生き方に引き戻されましたね。(笑)

老犬ホームというセーフティネットがあることを知ってほしい

老犬ホームの斡旋事業を始めようと思ったきっかけを教えていただけますか?

私自身「さくら」という柴犬を飼っています。結婚当初から飼っているので、もう子供代わりみたいなものですね。そんなさくらが13-14歳くらいになった時になんだかトボトボ歩いている姿を見て、「今まで愛情をくれた犬がこれからどんどん老いていく中で、自分は彼女に何を返してあげられるのだろう」と仕事とは全く関係なく考えていました。

他にも、人間は誰かを頼るよりも頼られる方が、絶対元気でいられるということを、自分の祖母を見ていてすごく感じました。

両親が共働きでしたので、小さい頃から身の回りの世話はすべて祖母にしてもらうという、大のおばあちゃん子でした。就職してからもしばらく実家から通っていたので、祖母は「就職しても、食事も洗濯も私にやらせてどうしようもないね」とよく嘆いていたのですよ。ところが自分が独立して家を出ていくと「もう私がやることは何もなくなったね」と寂しそうになって、結局そのあと認知症になってしまったのです。

やっぱり人は「頼られる」ことがすごく大事なんだろうなぁと思います。

自分を正当化しているのかもしれないのですが、自分が家にいて、祖母を頼っていた間は「頼られているからなんとかしないと」と一生懸命努力するから祖母は元気でいられたのかなと思います。その存在にペットはなれると思います。そういうことを考えていた時に、中高年の方が「ペットの最期まで面倒を見られないかもしれない」という不安からペットを飼うことを断念されているケースが多いことを知りました。「老犬ホームというセーフティーネットもあるよ」ということが分かれば、そういった中高年の方のなかにも、ペットを飼おうと思う人が増えるのではないかと思いましたね。ペットは無償の愛で、飼い主を頼りますよね。そうすると、頼られる方は元気でいられるし、万が一のことがあっても、老犬ホームや第3者の協力によって飼い主さんを支えられる仕組みがあればペットも不幸にならないと思います。「老犬ホーム」というサービスを見た時に、そういう問題を「解決できるのでは?」と思いましたね。

でもやっぱり「老犬ホーム」の斡旋事業は黎明期でしたよね?それでもこの事業に踏みきることができたのはさくらちゃんとの関係やおばあ様との関係以外に何か理由があったのですか?

おっしゃる通り、まだまだ黎明期なのでこれが上手くいくか分かりませんでした。ですが、私は前職で、家をインターネットで調べて買うという人が誰もいなかった時代に、それが当たり前になっていくところを見てきたんですよ。「みんなが信じないことが未来に起こる」という経験をしてきたんですよ。大きな挑戦かもしれませんが、そういう未来が開ける可能性があることを私は信じられます。ある意味そういった「分からないこと」にチャレンジすることが私に与えられた天命なのかもしれませんね。

老犬ホームに預けられる方ってどのような方が多いのですか。

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皆さん普通の方ですよ。共通して言えることは「予想以上に介護が大変だった」という肉体的、精神的な疲労があるところですね。預けられる際に、特に一番多い理由が「夜鳴きによる周囲、近隣への気遣い」です。一晩中鳴いていると、「私たちは気にしないのだけど、近所から苦情が来る」「苦情は来ないけど、何か言われているような気がする」という悩みをお持ちの方が結構いらっしゃいます。それでも預けられるまでに皆さんものすごく逡巡(しゅんじゅん)されているんです。色んな飼い主さんが、色んな理由で、逡巡をされている。「捨てるということでは」という気持ちがどうしても湧いてくるみたいです。「老犬ケア相談デスク」という無料の電話サービスでもいろいろとご相談を受けることがあるのですが、切羽詰まっている方も多くいらっしゃいます。「昨日の夜も寝られませんでした。直近で預けられるところはありませんか」という質問をいただくことも少なくありません。もちろん「そうは言っても、どこかに預けるのは可哀そう」と考える飼い主さんもいらっしゃいます。そういう方には「短期ステイ」のように一カ月ほど預けてみて、一回気持ちを落ち着かせてから、やっぱり自分で飼えると思われるのなら飼えばいいし、無理だと思われるのなら預ければ良いのではないでしょうかとアドバイスをしていますね。

「リブモ」は私の20年間の知識が詰まっている

なぜ老犬ホームそのものではなく、「マッチング」のプラットフォームを作る側になったのですか?

もともとは「老犬ホーム」を運営しようと思っていました。テレビやインターネットで見た施設に連絡をして「老犬ホームをやりたいんだけど、情報を教えて欲しい」と尋ねたのですが、始めは「君これやるの?今まで犬の仕事やってきてないよね?」という感じでしたね。それでも粘り強くお願いをするうちに、「異業種から来てもらうのもいいかもしれない」という話になって準備を進めてきたのですが、一緒に議論をしていた方々が、私が以前HOME’Sでインターネットメディアの事業運営をしていたことを知るきっかけがあったみたいなんですよ。それで「だったら実業としてやるんじゃなくて、老犬介護の実態や老犬ホームというサービスを、世の中に認知してもらう、正しい理解を広めるために、時間を割いた方があなたの経験も活きるでしょ」と言われたんです。実は老犬介護事業の方たちが問題に感じていることの一つは老犬介護、老犬ホームへの理解不足なのです。「姥捨山になっているのではないか」「動物の飼育放棄を助長しているのではないか」みたいに思われたりします。もう一つは、日々お預りしている愛犬を大事に世話することに多くの時間が割かれ、そういった間違ったイメージを払拭したり、正しい理解をえるための活動や、入居犬確保のための集客に使う時間が介護事業者にはないということです。今から老犬ホームを始めるよりも、そういった活動をお手伝いするほうが、今までの経験も活かすことができますし、20年間ビジネスパーソンとして働いてきた恩返しを世の中にすることもできると思い、方向転換をした次第です。

提携する老犬ホームを選ぶ時に大事にしているポイントはどういうところですか?

「飼い主と愛犬が不幸にならない」というところが全てですね。何をもって「不幸にならない」ということはありますが、「愛犬に肉体的・精神的な不快がなく、ゆっくりと余生を過ごせる環境があるのであれば良いだろう」というのが最低ラインです。あとは運営者の思想ですね。「お金を儲ければいいや」とか「もし上手くいかなかったらこの事業やめればいいや」とか、そういう思想の運営者には安心して犬を預けることはできませんからね。逆にそういった最低の条件をクリアしていれば、必ず高品質である必要はないと思います。選択肢は色々あっていいのではないかと。人間のホテルと一緒だと思ってますね。3,000円のホテルと25,000円のホテルでは期待するレベルが違いますよね。それと一緒です。老犬ホームを選ぶ際に選択肢は多くあって、どれを選んでも最低限のことが保障されている、というようなところをこだわっています。

提携する老犬ホームは愛犬と飼い主が幸せになれる場所に限る

提携しているすべての老犬ホームに行かれて運営者と話をされていると伺いました。

やはり実際に施設を見ないと分からないことが多くありますし、お客様によりリアルな情報をお伝えすることができますからね。施設を見に行く際は必ず一日いるようにしているんですよ。そうすると、施設の環境をもっとも良く表す朝一番の状態が分かります。また一日いると、施設のスタッフさんたちがどのように犬と接しているのかが分かるので、「この施設なら大丈夫」と思えるんです。

前職でのご経験により現在活かされているところはどういうところですか?

HOME’Sで培った集客ノウハウは現在の仕事でも活かされていますね。あとは消費者がモノを選ぶときに「どう比較検討するのか」みたいなノウハウもあるんですよ。例えば住宅だったら「何平米」「バス・トイレ別」「新築」とかですね。こういった比較軸はまだ老犬介護業界には確立されていません。それら比較軸を整理、整備するノウハウは活きると思います。ただペット業界にそれが全て当てはまるとは思いません。何しろ生き物を扱っておりますので、全てをスペックで比較するのも嫌なんですよ。「ドッグランが何平米あります」とか「一頭あたりの面積が何平米」とかいうスペックがすべてという状況にはしたくないんです。広いかどうかよりも責任者の人柄や、施設の衛生状態の方がより大事だと思っています。また、「実物を見たら想像と違ったのでやめます」っていうのは住宅だとできるけど、ペットの場合は、預け入れた後に「想像と違った」ではすまされません。ですので、全部をスペックだけで比べることは良いと思っていないのです。

老犬ホームは一つの選択肢にすぎない

老犬ホームの情報をどんどん世の中にオープンにしていくことで、森野様は世の中をどのように変えていきたいとお考えでしょうか。

老犬ホームをご利用中の飼い主さんにインタビューすると、皆さん共通して「預けて良かった」とおっしゃるんですね。飼い主さん自身は精神的・肉体的に楽になり、老犬ホームに入って元気にしている愛犬の姿を見て、そう思われるみたいです。そういう飼い主さんを見てきて、「こういう感情を世の中の一般にしたい」と思いますね。まだまだ老犬ホームに愛犬を預けに来られる方は肩身が狭いみたいです。「預けることも一つの選択肢としてあっていいでしょう」という風にしていきたいですね。

最後に、今後の事業展望を教えていただけますか?今後どのくらいの施設と提携していくお考えですか。

今のマッチング事業が収益ベースに乗ることが第一ですね。提携施設数が2ケタくらいあれば飼い主さんの選択肢が増えます。将来的には100施設くらいを目安に置いておりますが、やみくもに提携施設数の増加に走ると、玉石混合になってしまいます。そうならないよう、愛犬を安心して預けることができるかどうか見極めるため、実際に老犬ホームを見に行くということをこれからも大事にして、提携数を増やしていきたいです。
ここ2-3年の展望でいうと、①「自宅で自分で介護する人たち」②「自宅でサポートを受けて介護をする人たち」③「どこかに預け入れる人たち」、この3つのサービスが全部私たちで提供できるようにしたいですね。今、提供できているのは③だけなので、今後は介護ノウハウの提供をしながら、用品も自社で提供したり、在宅の介護スタッフを紹介するようなサービスを創っていきたいですね。

リブモ株式会社の会社概要


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事業内容:
老犬介護事業
老犬介護情報サービス「老犬ケア」の運営
老犬ホームのご紹介
老犬介護用品のご紹介
老犬ホームの開業支援
その他事業
インターネット集客の支援
経営全般、インターネットマーケティングに関するコンサルティング

 

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