猫砂で村おこし!ペット事業に参入した川口建設の魅力に迫る

2016年8月9日

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川口建設 株式会社:


川口建設は、紀伊山地のふもとにある龍神村(現、和歌山県田辺市龍神村)にて土木建築工事を主に手掛けている。村の約70%を標高500m以上の山岳地帯が占めており、合併前の総人口は約4,400人となっている(2004年10月1日時点)。今回は、紀州間伐材のひのきを使った猫のシステムトイレ用木質ペレット「森のねこトイレ」を作っている代表取締役社長(川口氏)、製造責任者(中田氏)にお話を伺った。

自宅に居ながらにして森林浴を楽しめる!猫と飼い主に優しい猫砂

「森のねこトイレ」の特徴を教えてください。

川口氏:「森のねこトイレ」とは、龍神村(和歌山県)で採れるヒノキの間伐材を使用した猫砂の事を指します。猫砂に使用する原材料は、建設廃材を使っている場合も少なくありませんが、当社の製品はヒノキの間伐材を100%使用しています。それだけでなく、1日に何度も猫砂を使用する猫ちゃんのことを考えて製造過程※で使用する接着剤にもこだわっています。そのため、ヒノキの香りが強くなり飼い主さんも自宅で森林浴をしているような気分で猫砂を使用いただけます。

※木質ペレットの製造過程画像①
社員が山から間伐材を切り出す→間伐材を砕いて粉にする→砕いた粉を乾燥させる→少量のデンプン、撥水剤、及び水を加えて混合→造粒機にオガ粉を少量入れながらゆっくりと押し出す(ペレットと呼ばれる)

 

きっかけは好奇心、猫砂にビジネスの商機を見出した

川口さんが間伐材を使った「猫のシステムトイレ」に興味をお持ちになったきっかけを教えてください。

川口氏:当社の本業は建設業です。とはいえ、紀伊山地のふもとにある人口4,400人の村にある会社なので、道路やダムを作ったり、ダムに溜まった流木の除去をしたりと、いわゆる公共事業の入札を通じて行政から請け負う仕事がほとんどです。最近は一つの公共事業に70もの建設会社が入札するなど、競争環境が激化しており、周辺地域の建設会社の倒産は日常茶飯事。本業の建設業一本で食べていくのは厳しそうだという危機感から、既存の技術を応用して新しい事業の柱が建てられないかと奔走していました。そのような時に生まれたアイディアが間伐材を使った木質ペレット※です。龍神村は冬に雪が降り氷点下となるため、試しにストーブの燃料として近隣の方に使っていただいたところ大変好評をいただき、地元の小学校に納品を始めました。当時、猫のシステムトイレがメジャーになり始め、ペレットが使われていると知り、「これなら既存の技術を活かして新たな製品を作れるのではないか?」と興味を抱きました。

※木質ペレットは樹皮、おが粉、端材などの製材副産物を圧縮成型した小粒の固形燃料のことを指す。ペレットを燃やしても大気中の二酸化炭素の量を増減させないことから、環境にやさしい燃料として近年注目を浴びている。

間伐材を使った猫砂で村おこしをしたい

建設会社がなぜ、間伐材で猫砂を作ることになったのですか?

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川口氏:龍神村は、間伐材が放置される問題(間伐材の問題に関するコラムを読む)が深刻化しています。そもそも間伐という作業は、若い木や不要な枝を落とすことで、太陽の光が差し込み、豊かな土壌の育成と立派な木の成長に繋がります。この作業をしないと、売り物となる木材が育ちません。間伐材によって作られた物の代表として割り箸を想像される方は少なくないと思いますが、実際のところ、間伐材で作られた割り箸など高すぎて売れません(笑)。「不要な木」であるのに高価な理由は、間伐材を山から運び出すコストが高騰していることが関係しています。この影響で、切り倒された間伐材が山の中で放置されることが多くなっています。しかし、山の中に間伐材が放置されると、他の木の発育を阻害してしまい、太くてまっすぐな木が育ちません。今の龍神村は間伐材を山から運搬するのにもお金がかかる、建設業の倒産が進み労働力も不足している悪循環に陥っています。そこで、間伐材を使って猫砂をつくることで、間伐という仕事を常時生み出し、この村の雇用増加にも貢献したいと思いました。

とてつもなく大きな夢・・・突き動かしたのは動物に対する熱い思い

なぜ、中田さんを開発責任者に指名されたのですか?

川口氏:従業員の中から中田を責任者に指名した理由は、彼の職人気質の性格を見込んでのことです。彼は、今時の若者には数少ない気質の持ち主で困難に立ち向かっていく気概があります。責任感の強さや新しいチャレンジができる人物だと思い、全てを任せている次第です。

猫用品の開発のお話を聞いて、率直にどう思われましたか?

中田氏:率直に申し上げると、社長はなんという無茶振りをするのだと思いました(笑) 。ストーブ燃料用のペレットを作ったことがあるといっても、猫のシステムトイレ用ペレットは製造方法が全く異なるのですよ。ただ、龍神村は人間より野生動物の数のほうが多いのではないかと思うくらい動物がたくさんいますし、我々も怪我をしている鹿の世話をして森にかえすことがあるくらい動物好きなので、大好きな動物のためならばと開発に着手しました。私自身は猫を飼った経験がないため、市販の猫用システムトイレを取り寄せて分解してみたり、当社の間伐材と相性の良い接着剤を探すために、実験と試作品の作成を繰り返す日々が続きました。

苦節三年、遂に完成!ところが・・・

開発には3年かかったと伺っております。苦労した点を教えてください。

中田氏:最も苦労した点は、水を含んでも崩れないようにするという工程でした。ストーブ燃料用と猫のシステムトイレ用のペレットの大きな違いは、水分を含んだ時に崩れるかどうかというところです。もちろん、人工の接着剤をたくさん使えば、水分を含んでも崩れないようにすることは簡単です。しかし、接着剤をたくさん入れてしまうと、添加物で木の香りが薄れるだけでなく、猫のプニプニな肉球が荒れてしまう恐れがあります。一方で、天然素材の接着剤では水分を含むと崩れてしまう場合が多いのです。あらゆる接着剤を調べ、サンプルを取り寄せては試し、崩れてしまう…そのような繰り返しでした。ようやく求めていた接着剤に出会えたと思い、大量に製造しようとしたところ、同じクオリティのものができないという問題に直面しました。ほどなく間伐材の新鮮さ(切り出してからの年月)が影響していることが分かり、解決しました。

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次に苦労したのは、ペレットの直径と長さです。体格が違えば肉球の間隔も違います。ペレットが細かすぎると肉球に挟まってしまうし、大きすぎても砂をかいてくれません。色々なペット飼育者に試していただきましたが、みなさん仰ることが違うので非常に困りました。
3年が経ち、ようやく商品が完成しました。意気込んで東京のある展示会に出展したところ、お客さまが一言、「崩れるタイプがほしいです」と言い放ちました。その時は、さすがに「今までの苦労は何だったんだ」と泣きたくなりました。市販の猫のシステムトイレ用のペレットは崩れないものが主流のため、需要があるものを作ったつもりでいましたが、東京に行って初めて「崩れるタイプの猫砂」への需要があることを知りました。それからは、全国各地で開かれる猫関連イベントに出展をして全国の猫飼育者の意見を直接伺うようにしています。

天然素材100% ものづくりへかける想いとは

「森のねこトイレ」の一番の魅力とはどのようなところにあるのでしょうか?

中田氏:やはり、お客さまの声として一番多いのは、「他社製品と比べて香りがよく、香りが長持ちする」という感想です。当社の製品は素材を活かすべく、天然素材のみで作られています。製造過程を知っていただくと納得いただけるかと思いますが、まず、粉砕した間伐材を乾燥させます。その後、成形するための金型に移し圧縮させます。その際、木が本来持つリグニンという接着成分やコーンスターチがうまく働くことによって成形されるのです。乾燥させるための燃料ですら、粉砕する前に剥いだ樹皮やおがくずを使っています。

他には、「これなら安心して愛猫に使わせることができる」とか「地域の未来に貢献できるなら嬉しい」という声もいただいております。

画像④←知人の猫のトイレの中身を「森のねこトイレ」に入れ替えてみたところ、すぐに入って用を足したようです

 

 

 

 

 

お客さまが「森のねこトイレ」を知るきっかけを教えてください。

川口氏:東京で苦い思いをしたこともありましたので(笑)、できるだけ多くのお客さまに直接「森のねこトイレ」にふれていただく機会をつくるようにしています。当社の製品を知っていただくきっかけとしては、猫寺『浄願寺』(@石川県)でのお祭りや猫関係のイベントで知っていただいた方からの口コミ、東京都の有楽町にある和歌山県の物産館などが多いです。今後は一部のペットショップでも取り扱っていただく予定です。目下の課題は、安定して質の高い製品を大量生産することです。企業としての体力をつけつつ、インターネット上での販売に着手したいと思います。

製品の袋詰めを手作業で行う理由

ご自身で製品の袋詰めをされている理由を教えてください。

川口氏:現状はそこまで生産量が多くないことや、自分たちが手間暇かけて作った製品なので、できるだけ自前でやりたいという思いから、製品の袋詰めは手作業で行っています。また、猫の飼い主さんのため、猫が1か月に使う分を一袋(約2.5リットル)として販売しています。一方、パッケージのロゴはデザイナーに依頼して作成しました。「森のねこトイレ」の紙袋には、「龍神村のブランドとして農作物等にロゴマークをつけて発信していきます」と書くことで、村全体を盛り上げたいと思っています。

間伐材を使った猫砂の先にあるもの

今後の展望を教えてください。

中田氏:「森のねこトイレ」のさらなる品質向上のための研究と並行して、フェレットやうさぎ、ハリネズミの為のチップを作ってほしいというお声をいただいているので試作中です。
より多くのお客さまに知っていただき選んでいただくことで、当社の製品を通じてペット飼育者とペットの日常をより快適にするお手伝いができればと思います。

川口氏:動物用のチップ以外ですと、油を吸収する機能を持ったペレットを製造・販売しています。これらは、交通事故の現場等で油漏れしている道路にまいて掃除をするための役割を担っています。他には、燃料ペレットも販売しています。こちらは当社の原料と製造方法では採算が十分に合うとは言いにくいですが、間伐材事業を増やす一環で行っていますので、将来的に村全体の雇用増加に繋がればいいという想いから続けています。現在の龍神村は高齢化が進み、本来の活気を取り戻すには木が育つくらいの時間が必要だと思いますが、我々の取り組みは、限界集落と言われている地区を再生することに少なからず貢献できると自負しています(インタビューは以上)。

【コラム:間伐材を使った発電の問題について】

間伐等によって伐採された木材のうち、未利用のまま林地に残置されている間伐材は、全国で約2,000万立方メートル(年間)に上る。こうした間伐材を活用した一例として、「木質バイオマス発電」があげられる。「バイオマス」とは、生物資源(bio)の量(mass)を表す言葉であり、「再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)」のことを指す。その中で、木材からなるバイオマスのことを「木質バイオマス」と呼ぶ。
間伐材等を用いた電力供給が注目されている背景には、間伐材を持て余す自治体がこれらを有効活用したいと木質バイオマスを使った事業に積極的になっていることや、2012年7月より再生可能エネルギー電力の固定価格買い取り制度(FIT)が始まったことが考えられる。
未利用材(間伐材を含む)発電の場合、1kWhあたりの価格は32円(税別、2014年2月末時点)と一般木材や廃材等と比べて高額に設定されている。しかし、実用化している木質バイオマス発電技術では5,000kWh規模を超えないと採算が合わない。従来の買い取り価格では、間伐材を林地から搬出する費用を賄うことは難しくなっている。例えば1立方メートルあたり、FITの発電事業向けに販売する場合でも6,000円程度である一方、山から搬出するには5,000~2万円程度かかる。
とはいえ間伐材を有効活用する取り組みは、持続可能な森林の保持や再生エネルギーの利用拡大、雇用創出にも繋がる。
今後、安定して適切な量の間伐材を一定価格で調達できるかが大きな鍵となりそうだ。

参考:http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/con_1.html(農林水産省/林野庁より)

 

法人名     :川口建設株式会社

住所      :田辺市龍神村小家1013-3

設立年日    :1980年

代表        :代表取締役 川口 明久

事業内容    :法面保護、土木建築工事等・液体吸着材等

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