保護動物と飼い主との新しい出会いを可能にする「オンライン譲渡会」とは

2020年9月30日

新型コロナウイルス感染拡大を防止するために、世界的な取り組みとして、新しい生活様式が導入されています。動物保護の分野でも、譲渡会をオンラインで行う試みが行われています。長く保護動物の譲渡会を開催されてきた高橋様に、譲渡活動にかかわった背景からオンライン譲渡会の実態、そして今後目指していきたい譲渡活動の姿までお伺いしました。


一般社団法人 Do One Good 高橋一聡氏
明治大学時代、大学ラグビー選手権優勝を3度経験。大学卒業後は伊勢丹に就職。32歳の時、グルーミングを学ぶためにアメリカへ留学。現在は、譲渡会開催のサポートや動物保護活動などを行う、一般社団法人Do One Goodの代表理事として活躍。「未来のペットショップを創る」をスローガンに、これまでにないペットショップの概念を創造する。譲渡活動以外に、被災地支援活動「7iro CARAVAN」にて東日本大震災・熊本地震被災ペットの支援活動を実施。

ペットは、人と人をつなぐきっかけを作る

高橋さんは、なぜペット業界に携わられるようになったのですか。

私は大学卒業後、百貨店の伊勢丹で仕事をしながら、伊勢丹のラグビー部でプレーをしてきました。しかし、入社7年目にラグビー部が廃部となり、それをきっかけに自分の人生を見直し、ラグビーとは全く異なる分野で自分の視野を広げたいと思ったのです。そう考え始めて自分の周りを見回した時に、スポーツとペットは共通項があることを発見しました。スポーツの良いところは、応援席でたまたま隣り合わせたおじさんと若者が、同じチームを一緒に応援することが出来るところ。このように、スポーツを介せば、年齢や性別、職業などの壁を越えて、語り合い、喜びあうことができるでしょう。ペットも同じで、「犬友、猫友」という言葉があるように、飼い主さん同士のコミュニティがありますよね。つまり、スポーツもペットも、人と人とのコミュニケーションのきっかけになり、人と人をつなぐ役割を果たしてくれる。そのことは、私がずっとスポーツを通じて学んできたことであって、まさに自分の次の人生を賭けるにふさわしい分野であると思ったわけです。そこで、一からグルーミングを学ぶためにアメリカに留学しました。帰国後、日本のグルーミングサロンで働き、2003年にペットホテルを始めました。

なぜ、ペットホテルを始められたのですか?

飼い主さんが旅行先などで、「ペットが家にいるから帰らなきゃいけない」という、ペットがいることに対するネガティブな発言を払拭したかったからです。
当時のペットホテルは、動物病院かグルーミングサロンがサービスの一環として手がけているくらいでした。そのような中で、ペットホテル専門の事業を始めました。預かっているペットが暴れたり脱走したりしていないか、飼い主目線で考えたときに心配だったため、ペットホテルの室内に自分の寝床を造って、24時間見守りができる体制のペットホテルを始めました。また、フレンチレストランも開業して、落ち着いてお食事を楽しんでいただきながら、ペットカウンセリングを行うというビジネスをスタートしました。ペットホテルの利用料金は犬種に関わらず1日12,000円(1時間500円、延長の場合は1時間600円)で、料金内にグルーミングも含まれています。仕事で帰宅が深夜になったり、早朝からの外出が発生したりする場合でも、24時間いつでも送迎できるビジネスをすることで、周辺にある1時間500円ほどのコインパーキングよりもコストパフォーマンスの良い仕事をしようと思いました(笑)。当時の一般的なペットホテルの利用料金は、小型犬で1日1,500円~3,000円くらいだったので、当時のペットホテルとしては破格の高価格でしたが、今までにないシステムと、祖父母が可愛い孫をみる感覚で預かるという私のポリシーに賛同してくださる方が多く、口コミでパッと広まりました。当時は、休む暇もないくらい大忙しで、「私のこのやり方が社会を変えていくんだ!」と自負していたくらいです。

青山ファーマーズマーケットで譲渡会をスタート

譲渡活動に携わるようになったきっかけを教えてください。

ペットホテルを始めて3年目くらいに、「ただのいぬ。展」という展覧会を見にいく機会がありました。捨てられたり迷子になったりした犬たちの運命を、「光の部屋」と「暗闇の部屋」の2つの部屋に分けて表現しており、どちらを見るか選択しなければならないという展示スタイルでした。「光の部屋」には新しい家族に迎えられた保護犬、「暗闇の部屋」には殺処分される保護犬。それを見て、私はものすごい衝撃を受けたんです。私が普段接している飼い主さんのペットとは、全く異なるペットの世界があることを、初めて知ったからです。お金をかけてペットを育てる人がいる一方で、保護された後、行き場のないまま殺処分されてしまうペットもいる。しかし、そんなペットをほかの飼い主さんに譲渡するために、お金をもらうどころか、お金を払ってまで動物の保護に取り組む方がいる。しかも、そういう方々は、私よりずっと犬や猫に関する豊富な知識とスキルを持っていらっしゃるんですね。当時、「ペット業界のこれからを変えていくんだ」くらいの勢いでいたのですが、ものすごく恥ずかしくなりました。そのため、今後は「譲渡活動」に軸足を置いてみようと思い、都内にある青山ファーマーズマーケットで譲渡活動を開催するようになりました。

譲渡会の場所に青山ファーマーズマーケットを選んだのはなぜですか?

まず多くの人の目に留まる場所でやりたいと考えました。譲渡会を開催させてもらえる場所はなかなか無く、人の目に留まらないような場所でやむなく開催しているケースも多かったのです。私は元々百貨店に勤めていたこともあり、譲渡会も百貨店のように多くの人の目に留まるカタチで開催したいと考えていた中、青山ファーマーズマーケットに出会いました。国連大学前で開催される青山ファーマーズマーケットは、多くの人の目に留まることはもちろんのこと、農家の方が自分たちの作った野菜などを直接消費者の手に届ける場であることが特徴です。そこで販売される野菜は、スーパーマーケットに並ぶような見た目が整った野菜ではありませんが、味は抜群です。青山ファーマーズマーケットは「野菜に対する消費者の価値観を変えよう」という取り組みなのです。このように、青山ファーマーズマーケットは、食品のこだわりや食べ方を伝えて、コミュニティを形成する場です。そこでは、生産者と消費者がお互いに顔が見えるため、譲渡会は青山ファーマーズマーケットでやりたいと考えたのです。

食品を扱う場所での譲渡会は反対も多かったのではないですか?

そうなんです(笑)。動物を嫌いな人がいるとか、毛が舞うから衛生的に問題があるなど、いろいろな理由から反対されました。でも、農家さんが現場の流通方法や人の価値観を変えたいと思っていることと、ペット業界がこれから目指したいと思っているところは同じであることを根気強くお話したところ、ご賛同いただけたんです。それまで各保護団体さんが開催されていた譲渡会は、河川敷などが主な会場でした。すごく良いことをやっているのに、それをアピールすることが苦手な保護団体さんにとって、青山ファーマーズマーケットという革新的なイベントから学ぶことはとても多いと思います。

オンライン譲渡会だからこそ、できることがある

新型コロナ禍前後における譲渡会の変化について教えてください。

各保護団体さんが河川敷などで行なってこられた譲渡会から始まり、2009年からは青山で定期的に保護犬と保護猫の譲渡会を開催するようになり、徐々に参加される保護団体さんも増えました。青山という都心での譲渡会は、今まで保護動物や保護活動のことを知ってもらうことが主な目的でした。個々の犬や猫の情報を公開するという意味で、「オンラインでの譲渡会をやってはどうか」という話はこれまでにもあったのですが、なかなか保護団体さんには受け入れられませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大が危惧されるようになり、オンラインで譲渡会を開催してみたところ、思いのほか各保護団体さんからも飼い主さん側からも好評を頂きました。今では、「むしろオンライン開催のほうが良い」という保護団体さんもいらっしゃるほどです。

オンライン譲渡会のメリットとして、どんな点が挙げられますか?

第一に、移動がないので、動物の肉体的、精神的な負担が軽減されることです。たくさんの人に囲まれるのが嫌いな子や興奮しがちな子などは、リアルで開催される譲渡会に連れて行けませんでした。限られた条件の子しか、参加できなかったんですね。でも、オンライン開催なら、本当に知ってもらいたい子の普段の様子や性格を見てもらうことができます。また、譲渡会の日時に合わせて遠方まで足を運ぶことが難しい方も多いでしょう。そういう方にとって、たくさんの犬や猫に出会えるオンライン譲渡会は、嬉しいのではないでしょうか。また、オンライン譲渡会で紹介した情報をアーカイブに残すことで、それまで譲渡会に参加されたことのない方が保護動物にふれる機会が増えたのではないかと思います。

より多くのベストマッチングを目指したい

オンライン譲渡会を敬遠される保護団体さんも見受けられるのでは?

オンライン譲渡会が嫌で敬遠しているのではなく、「やってみたいけど、どうやってやればいいのか、方法がわからない」という保護団体さんも少なくないのが現状でしょう。そこで、オンライン譲渡会のやり方がわからない保護団体さんでもオンライン譲渡会ができる支援を行うことを目的として、今年5月から、熊本の保護犬・保護猫たちに新しい家族を見つけるプロジェクトである「ジョートフル熊本」の地元ボランティアの皆さんがオンライン譲渡会をスタートするお手伝いを行いました。そこでは、スタジオの司会者として地元のボランティアとユーチューバーを採用し、保護団体さんのところにカメラクルーを入れて、スタジオから呼びかけるカタチで中継を繋ぎ、保護犬や保護猫を紹介していきました。今は、LINEライブやFacebookライブを使って、保護団体さんが単独で行っているオンライン譲渡会はありますが、中継を繋いで開催しているのは私たちくらいではないでしょうか。

今後も中継を繋ぐカタチのオンライン譲渡会を予定されていますか?

毎年、名古屋市動物愛護センターと合同で行ってきた譲渡会が、今年は新型コロナウイルス感染拡大の問題があり中止になりました。そこで、2020年11月の初めに動物愛護センターをスタジオとして、愛護センターの保護犬や保護猫を映像で紹介するとともに、名古屋市内にある3つの団体さんの場所までバスを走らせて中継を繋ぐ譲渡会を開催します。バスが移動している間は、あらかじめ作っておいた映像でたくさんの保護犬、保護猫を紹介する予定です。オンライン譲渡会といっても、かなりリアルに近い譲渡会を作れるのではないかと考えています。

オンライン譲渡会を利用した方の反応はいかがでしょうか?

熊本で行なった1回目のオンライン譲渡会では、紹介した8頭すべて飼い主さんが決まりました。2回目の開催も順調に行われたため、今のところ譲渡率はリアルの開催時よりアップしている感触を得ています。やはり、普段の様子を見ていただけること、そして最初からペットを飼うことに積極的とは言えない親御さんなどにも、見ていただくきっかけが増えることが、譲渡率のアップにつながっている要因ではないかと考えています。

今後の譲渡活動で目指していきたいこと

今後もさらにオンライン譲渡会は普及していくでしょうか?

今後はリアル開催よりオンライン開催の方が一般的になると思います。もちろん、最終的には飼い主さんと保護団体さん、動物が直接会って、触れ合うことが必要です。そのため、オンライン譲渡会は「出会いの場」、リアルな譲渡会は「面接会」として、譲渡会そのものの役割を変えていくと思います。個人のお宅で犬や猫を保護していらっしゃる方も多いですが、今の社会の状況下でお宅に伺うのは難しいですよね。実際に会いたい犬や猫が決まっていれば、譲渡会場での面会時間は少なくて済むので、長時間、広い会場を確保する必要がなくなりますし、動物にも負担をかけずに済みます。

今後の譲渡会で目指していきたいことを教えてください。

今後も、スタジオと中継を繋いで各保護団体さんを紹介するスタイルの譲渡会を、各地で開催していきたいと考えています。譲渡会の間に気になった子がいたら、会議ツールで双方向のやりとりができる仕組みのため、かなりリアルな譲渡会に近い状態を作れるのではないかと考えています。そうした譲渡会によって、動物側、飼い主さん側双方の負担を減らし、より多くのベストマッチングを目指したいと考えます。
11月中旬には、アトレ恵比寿とアトレ新浦安をスタジオにして、司会者が神奈川県の保護団体さんと中継を繋ぐ譲渡会を行う予定です。今後のDo One Goodの活動予定については、順次ホームページで公開していく予定ですので、ぜひチェックしてください。

 

事務所:一般社団法人Do One Good

代表理事:高橋 一聡

所在地:〒158-0082 東京都世田谷区等々力7-9-7

電話番号:03-5758-6397

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