ペット可シェアハウスを通じた、静かなる社会貢献(後編)

2016年7月19日

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株式会社シーワン:


戸建注文住宅の建築設計・施工を中心に、リフォーム・リノベーション設計も手掛けている。2004年よりペットと暮らす家・HOUSE-ZOOを展開し、2010年にペット共生シェアハウスの壱番館を埼玉県の越谷市にオープンした。ペット共生シェアハウスは、同社が企画から設計、施工、運営に至るまで一貫して手掛ける。現在は建築中の建物を含めて関東近郊に11棟のシェアハウスを展開している。

徳田友美氏:株式会社シーワン 代表取締役(一級建築士・一級施工管理技士)
田中宗樹氏:HOUSE-ZOO株式会社 代表取締役(一般社団法人日本シェアハウス協会 理事)

前編は、ペット共生シェアハウス事業を始めた経緯を伺った。後編ではペット共生シェアハウスをしてお2人が実現したい世界観について伺う。

なぜ、新築ではなくリフォームとしてシェアハウスを作ったのですか?

田中氏:
第一に、土地を購入するよりオーナーから購入した家にリフォームを施した方が費用を抑えることができます。他には、シェアハウス事業を通じて7-8軒に1軒が空き家と言われる状況を変えたいと思ったことが関係しています。
空き家が多い理由はいくつかあります。貸し手側の都合として、税金を軽減させるためだという理由が挙げられます。住宅用家屋(空き家を含む)が建っている場合、固定資産税は最大1/6、都市計画税は最大1/3になります。しかし、建物を解体した土地は減税の対象となりません。一方で、借り手側からしてみると、家族形態やライフスタイルの変化によって部屋の多さより管理の手間がかからない物件を好むようになっています。現在の空き家は4-5LDKと借り手にとって大きすぎる物件が多く、大きな物件を個人で借りる傾向が少なくなっていることもあります、少子高齢化や核家族化が進むにつれて、新築物件や大きな家ばかりがもてはやされる時代ではなくなっていくでしょう。

オーナーの帰る場所を残したい

お写真②
もともとあった階段を使っているため、趣のある造りとなっている

一棟貸しではなくペットと暮らすシェアハウスとして貸し出すオーナーのメリットはどこにあるのでしょうか?

田中氏:
オーナー側の一番のメリットとして、継続して安定した家賃収入を得られる点が挙げられます。
一棟貸しの場合は、家賃が高価となるため対象者が限られますし、契約が成立するまでに時間がかかるようです。しかし、シェアハウスであれば1部屋ずつ貸すことができ、家賃収入がゼロになる可能性は限りなく低くなります。ある3階建ての立派な家のオーナーが不動産会社に賃貸の相談をしたところ、家賃の見積もりが月額30万円になったということで当社にご相談をいただき契約に至ったこともあります。
他にも、一棟貸しの場合は、もとの自宅へ遊びに来ることは難しいですが、シェアハウスであれば別の場所に引っ越したとしても、遊びに来ることができます。実は、シェアハウスを手掛けるうちに、大きな家を持て余しているものの、完全には手放したくないというオーナーが多いことに気が付きました。シェアハウスであれば、「引っ越しても、たまにはもとの家に帰りたい」というオーナーのニーズを満たすことができます。オーナーがペット好きの方であれば、シェアハウスに遊びに来た際に「ペット」を共通の話題として入居者と盛り上がることができるのではないでしょうか。

種別を超えた共生を実現する秘訣

入居するペットの種類や数に制限を設けているのですか?
また、シェアハウスで入居者とペット同士が共生するためにどのようなルールを設けていますか?

お写真④田中氏:
壱番館の場合は、1人につき1匹までと決まっていますが、それ以外のシェアハウスでは多頭飼育が可能です。犬・猫が多いですが、特別な制限を設けているわけではありません。ペットの種類は果てしなくありますので、「まずは相談してください」というスタンスを取っています。また、入居前に犬の場合は犬鑑札※、狂犬病予防接種、混合ワクチン接種の証明書の提示をお願いしています。
一方で、内見時にペットを連れて他の入居者とそのペットに会っていただいたり、徹底したルール作りを行ったりと、入居者の方が快適に過ごせるようなフォローも行っています。我々にとってのリスクは、共同生活ができなくて周りに迷惑をかける1人のために他の人が退去することです。だからこそ、当社はキッチンの使い方一つにしても厳しく定めています。ルールを変更する度に赤字で付け加えていると、真っ赤になってしまいました(笑)。当初は「当たり前」の事は記載していませんでしたが、当たり前だということはどちらにもいいように解釈されます。やはり、やってみないと分からないものです。
何度注意をしても改善が見られなかったので退去をお願いした例もありますが、追い出すことを目的としているわけではないので、出来る限りのお手伝いをさせて頂いています。例えば、犬の無駄吠えは家の中に限らず近所にも迷惑をかけるので、しつけ教室を紹介しています。

※犬鑑札とは・・・
飼い主は、生後91日以上の犬を飼い始めたら、30日以内に犬の登録をする必要がある(狂犬病予防法による)。登録手続きをする際に交付される札のことを犬鑑札という。登録された犬であることを証明する標識であるため、飼い犬に着けておく必要がある。なお、鑑札には登録番号が記載されているため、万が一、飼い犬が迷子になっても、装着されている鑑札から確実に飼い主の元に戻すことができる。

現在運用中のHOUSE-ZOO7棟のうち3棟は犬・猫共同ですが、犬と猫には習性の違いがある中で、なぜ共同にしたのでしょうか?
徳田氏:
私は種別で分けるのではなく、一緒に住めることが理想の姿だと思っています。ズーさんのショップでは犬・猫を分けていませんし、大型犬を放し飼いにしています。そこには犬の性質や触れ合い方をよく知らない人や子供も来ますが、トラブルが起こったことはありません。ズーさんの事例からお分かりのように、飼い主のしつけ次第で種別を超えた共同生活が可能になると思っています。一方、アレルギー等で犬・猫のどちらかが苦手な方もいると思いますので、種別毎のシェアハウスも作って反応を伺っています。私が動物好きなこともあり、種別を超えて共生できる環境を提供して行きたいと思います。

ペット共生シェアハウスの魅力とは

入居者にはどのような方が多いのですか?

写真⑤田中氏:
入居者は30歳前後の女性が多いです。通常の「ペット可」物件と比べて初期費用を抑えることができる点やペットに優しい造りとなっている点が評価されています。通常のシェアハウスの入居期間は1年間と言われていますが、ペット共生シェアハウスであれば平均2年以上と、一般的な不動産物件と変わりません。6年間ほど入居している方もいるくらいですから、居心地が良いのでしょう。ペットオーナーやペット好きが集まっているので、入居者同士で共通の話題を持つことができます。もちろん楽しいことばかりではなく、入居者の中にはペットの死を経験する方もいます。ある時、10歳を超えたワンちゃんを迎えた方から、「仕事から帰ってきたら、亡くなっていた」と電話をいただいたことがありました。シェアハウスであれば皆で哀しみを共有することができます。これが1人暮らしですと、自分1人で悲しみを抱え込まなければなりませんよね。その方は「いまは他の子を迎える気にはなれない」と仰っていますが、他のワンちゃんを大切に可愛がっています。

入居者全員でペットを可愛がることができるのは、シェアハウスならではの魅力ですね。その他に、ペットにとってどのような効用がありますか?

お写真③田中氏:
はじめは警戒し合っているものの、慣れてくるとペット同士も友達になり、リビングなどの共有スペースで他のペットと仲良く遊ぶ子が多いようです。また、他の入居者のペットを可愛がっているときに自分のペットがやきもちを焼く様子を見るなど、うちの子の新たな一面が発見できるようです。仕事で遅くなってしまった時やいざという時、他の入居者に「ちょっとペットの様子を見ておいて」と頼むこともできます。他にも、地震など万一のことが起こった際、ペットが取り残されることがあってはならないと思っています。シェアハウスを地震の時の避難所として欲しいという思いから、どのシェアハウスにもトイレや食料を置いています。BBQセットやバーナーを置いているところもあるのでいざという時も安心です。シェアハウスは小さな部屋の集まりですので、建物として非常に耐震性が高い構造となっています。以上のことから、有事が起こった場合でも安心して暮らしていただけると思います。

23区内に物件を増設する予定はありますか?今後の展望と併せて教えてください。

徳田氏:
今のところ、練馬区に1つあります。23区の物件は集客力が非常に強く、良い広告になると思いますが、新築となると土地代が高すぎます。今後、可能性があるとしたらリフォームでしょう。今後、23区内にも中古住宅が増えてくると思いますので、当社の今後の展開にご期待ください。
最終的な目標は、高齢オーナーとペット好きな若者が共生できるシェアハウスを作ることです。立派な家におじいちゃん、おばあちゃんだけで住んでいても広すぎますが、いざ家を売却して施設に入居するとなると、人間関係が狭まってしまうと思います。私自身、週末は自宅兼シェアハウスの壱番館で過ごすことが多く、自分が元気でいられるのも、若い人たちと話せるというのが大きいと思います。「オーナーが帰れる場所」という構想は自分たちの故郷での記憶に原点があると思っています。私たちは宮崎県出身でして、幼少期だった頃の故郷での記憶は、おじいちゃんおばあちゃんの家での記憶なのです。牛小屋や納屋があって、犬・猫を放し飼いにしていました。両親と話すよりもおじいちゃんおばあちゃんと話している時間のほうが長いくらい。当社のシェアハウスに入居する方は、およそ2/3が地方出身です。一人で上京するよりも可愛がっているペットと一緒でしたら、東京でつらいことがあっても癒されるのではないかなと思います。ですから、半分はお年寄りのオーナー、もう半分がペットを愛する若者がペットと共に同居するシェアハウスを作っていきたい。年齢の差があって多少話は合わなくても「動物が好き」という共通の話題があれば、共生することは可能でしょう。シェアハウス事業を通じて空き家を減らしたり、新しい共生の環境を提供したりすることが自然と社会貢献に繋がると信じています。

 

 

法人名     :株式会社シーワン

住所      :東京都渋谷区南平台町3-5 JaZoo渋谷203

設立年日    :1990年

代表        :徳田 友美

事業内容    :

①建築設計・施工
戸建注文住宅が中心

②リノベーション事業
リフォーム・リノベーション設計施工。古い住宅・ビルをペット共生住宅等への改装を手がける

③シェアハウス事業
ペット共生シェアハウスの企画、設計、施工、運営

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