GREEN DOGが手がける「新しい犬との出会い方」(後編)

2015年12月4日

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株式会社 カラーズ
代表取締役社長 佐久間敏雅氏
1992年、東京大学法学部卒業。同年、P&Gマーケティング本部入社。生理用品や紙おむつなどのメガブランドのブランド・マネージャーを20代にして務める。また、アジア地区での新製品の開発・投入、ブランド・エクイティの確立など、新規事業の立ち上げなどにも深く関わる。2000年2月同社退社。7月株式会社カラーズを設立、代表取締役に就任。現在は会社運営の傍らグロービス経営大学院にてマーケティング・経営戦略の講師も務めている。

前編ではカラーズの多岐に渡る事業内容や、佐久間氏が描かれている世界観について伺った。同氏は業界間の隔たりを埋めるために、GREEN DOG代官山において、動物病院とトリミングサロンを併設した店舗を運営している。後編では、ペット業界に対する展望を中心に伺う。

店舗を運営して痛感した、「壁」

ショップと動物病院が併設された店舗を運営されていかがですか?

実際に自分の店舗で運営してみると、互いの専門分野の棲み分けが難しいと分かりました。例えば、獣医師に分からないことをトリマーは知っていますし、できることも多いんです。その逆も当然あり得ます。だからこそ、互いの得意分野を認めて任せ合うような信頼関係が強化されれば、お客様にとって本当に良い環境になるはずだと思っています。

常々ペット業界内の横の繋がりが希薄であることを課題に感じており、弊社が10周年を迎えた時の記念式典にお取り引き先の方を招きました。その際に、カラーズの考えるペット業界のビジョンを共有し、多くの方から賛同いただきました。私たちが提供した場をきっかけに、今までに関わりのなかった会社が繋がり始めました。

その後、賛同いただいた会社のお取り引き先にもお声掛けいただいて「ペットとの未来創造委員会」を立ち上げ、業界の改革をしていくという試みがスタートしました。テーマを議論する中で1番最初に着手すると決めたのは、ペットサロンの底上げでした。そこから生まれたのが「非営利一般社団法人 日本ペットサロン協会」です。

人が定着する労働環境を整えるために必要な条件

なぜ、ペットサロンの底上げを最優先にしたのですか?

何かあったときに足を運ぶ動物病院とは違い、平均して月に1度は足を運ぶペットサロンは、犬とお客様にとって一番身近な存在だと言えます。お客様とペットのサポーターになれば、暮らしの質は格段に上がるはずですが、現状はそのような存在になりきれていません。

理由はいろいろ考えられますが、給料や処遇等、トリマーの置かれている労働環境にあると思います。人が定着しない労働環境ではサービスの質が上がりにくく、結果としてお客様にとって絶対的な信頼のおける存在にはなれません。人がしっかりと育つ環境をつくるためには、売り上げと利益を持続的に出すような経営をしていく必要があります。

ペットサロンの経営をサポートするために、講習会を開いたり、法務・労務関係の相談窓口を持ったり、一番大きなリスクである施術中の事故に対して保険を用意しています。

GREEN DOGが提案する犬との「新たな」出会い方

GREEN DOG湘南では、保護犬譲渡センターを常設していると伺っています。なぜ、店頭に保護犬との出会いの場を設けたのですか?

●DSC02033創業当初に、友人から「動物関係の仕事をするのであれば、知っておくと良いよ」と、ある動物保護団体を紹介されました。殺処分の話はある程度は聞いていたものの、実際に現場を見ることは初めてで、衝撃を受けました。それまでの私たちは、捨てられる犬や猫を減らすために、お客様をサポートしていこうと本業に集中していました。

しかし、「数万の単位で犬や猫が殺処分されているということであれば、こちらの分野にも関わるべきなのではないか」という考えが生まれました。少しでも力になりたいと、その団体のホームページを作らせていただくところから保護犬に関わる活動が始まっています。弊社の経営理念「カラーズは、人とコンパニオン・アニマルがよきパートナーとして幸せで楽しく暮らせる社会を創造することを目的とします。」を実現するのであれば、犬や猫の殺処分を無くす必要があります。

時を同じくして100-200頭単位で犬を保護し、譲渡活動をしている団体に出会いました※3。このような団体には、大規模なシェルターが必要です。そうしますと、交通の便が悪いロケーションとなり、殺処分の問題に強い関心を持っている方でも足を運ぶことが難しくなります。まして保護犬のことを知らない方からすると、そのような状況には一切気づかずに日々を過ごしているので、結果として保護犬や保護猫に里親が見つかる確率が低くなります。

私たちは、何気なく通りがかった方に殺処分の現状を知ってもらうことで、「自分も何かできないかな」とか「次に犬を飼うときには、里親になろうかな」と思うような状態にしたいと思っています。幸いにして、次の出店地が湘南に決まり具体化している時でしたので、「ぜひ私たちのショップで保護犬を紹介しませんか。」という形でスタートしました。

この保護団体は、「捨てられてかわいそう」という感情が先走るのではなく、「殺処分ゼロ」の達成を最優先としてやるべきことを考える戦略的思考や多くの動物を保護する施設を運営するために必要な資金調達力が強い方々なので実現できたと思います。しかし、この「殺処分ゼロ」を実現するためにも今後は他の保護団体でも再現できるようにしないといけません。何よりもビジネスとして持続させないと、この仕組みを普及させることは難しいと思います。

例えば保護施設1つをとってみても、それなりの資金がないと続けることが難しくなります。我々が成功モデルとなり、「あのような方法でもショップとして成り立つのか」と思っていただけるレールを敷くことができれば、自ずと後が続いていくと思います。

※3GREEN DOG湘南では、NPO法人ピースワンコ・ジャパンの保護犬譲渡センターを常設し、新たな里親を募集中の保護犬を紹介している。
(詳細を読む⇒災害救助のプロ、ピースウィンズ・ジャパンが「殺処分ゼロ」に着目する理由

全ての取り組みの根底に共通する想い

カラーズは、どのような人材が集まっている会社なのでしょうか。

DSC02031弊社のメンバーは大きく2パターンに分かれます。ひとつは、動物が好きでペットのために何かしたいという人、もうひとつは新しいことをして世の中を変えていきたという思考で入社し、ペット業界の現状を知り問題意識を持つようになった人です。もちろん、「ペットが大好き」という方だけにチャンスがある業界ではありませんし、動機はそれぞれで良いと思います。

何よりも大切なことは、お客様の要望に対するサービス・商品の開発や導入が出来る力を持っていることだと思います。それこそ私が業界に参入した15年前は、顧客視点の「こ」の字もありませんでした。「いかに楽して儲けるか」もしくは「犬が好きだから儲からなくてもいいや」のどちらかでした。「お客様の方を見る」という考え方は、ようやく業界に定着しつつあると思います。犬のためにもよくて、かつ顧客の求めていることを軸において企画・実行できる人が必要です。

実は、会社を始めて2.3年経った時にご縁があって、現在もビジネススクールの講師を務めています。当時はペット業界にどっぷり浸かっていたので、「違う世界も面白いかな」と思ってお受けしました。
「人に教える」ことが自分に合うとは思ってもみませんでしたが、実務家として自分の経験したことや知っていることを他人に伝えたいという思いが強いのでしょう。もう10年以上続けています。

今後も、私はビジネスを通じて自社の理念に掲げているような社会を作っていくつもりです。一見すると、カラーズの経営とグロービスでの講師業は別物に見えるかもしれませんが、どちらも「世の中を良くしていくために自分ができることをやる」という価値観で取り組んでいます。
様々な視点をお持ちの方とペット業界を盛り上げていきたいと思っていますので、今後はIT分野でのビジネス経験をお持ちの方とビジネスを広げていきたいと思っています。

株式会社 カラーズの会社概要

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設立:2000年7月28日

従業員:98名(常勤役員、パート・アルバイト含む)(2015年3月末時点)

事業内容:

  • 犬たちの「心と身体の健康」のための自然食フード、健康食品を中心とするプライベート・ブランド「feel green」や「Hermoni(アルモニ)」を通販事業にて取り扱う。
  • 神戸・サザンモール六甲、東京ミッドタウン、代官山、湘南の店舗では健康のためのグルーミング、ホテル、しつけ方教室や各種セミナーなどのサービスを提供。2014年12月にオープンしたGREEN DOG湘南では、店内に保護犬譲渡センターを常設。
  • 日本アニマル・ウェルネス協会認定資格「ホリスティックケア・カウンセラー」の養成講座を開講。(2014年7月に受講生が延べ1万人を突破した。)
  • コンパニオン・アニマルの医療環境の向上をめざし、「オーナー様とのコミュニケーションを大切にした医療」をコンセプトとした動物病院の運営。
  • 直輸入しているペットフード等の卸問屋、小売店、動物病院等への販売。

 

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