ペットが私たちに与えてくれるもの~外出自粛から分かったこと~

2020年7月14日

帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科

濱野佐代子准教授

博士(心理学),獣医師,公認心理師,臨床心理士

主な著書「人とペットの心理学:コンパニオンアニマルとの出会いから別れ」(北大路書房)


大学で獣医学、大学院では心理学を学ぶ。

現在は人とペットの関係やアニマルアシステッドセラピー、ペットロスなどの研究を行いながら、「ペット飼育の心理学」や「人間動物関係学」などの講義を担当している。

今回、アイペット損害保険㈱と共同でおこなったアンケート調査の結果から、「ペットとの暮らしから人が得られる効果」について、過去の調査結果もふまえ分析していただいた。

 

はじめに

現在、多くの人が、ペットは単なる動物ではなく、家族の一員と考えています。ペットに癒されると感じることも多いかと思います。また、見ているだけで楽しい気持ちになったり、悲しいときに慰められたりした経験もあるかと思います。犬と散歩に行くことで健康づくりに役立ったという体験をしている方もいるでしょう。

昔は、犬は農作物を荒らす小動物を追い払い、不審者から家族を守る番犬であり、猫はネズミを捕る役割を担っていました。ほとんどの人が、このような犬や猫の能力を活かした実利的な役割を期待して飼育していました。しかし現在、犬や猫から得られる主な恩恵は、実用的な利点から、関係性そのものへと変化してきました。それに伴い、ペットさらにはコンパニオンアニマル(伴侶動物)として一緒に暮らす家族となりました。

ペットとの暮らしから得られる効果

ペットと暮らすことが人に与える効果として、身体的効果、心理的効果、社会的効果があるといわれています。「動物が人にもたらす効果」について、マックロウ(1983)をはじめ多くの研究者は、その効果を三つに分類しています。

※1 トリグリセリド
 中性脂肪のこと。増加しすぎると生活習慣病を引き起こす
※2 オキシトシン
 幸福感、愛情や信頼関係に肯定的に作用するといわれているホルモン

 

外出自粛の状況下においてペットと暮らすこと

現在、世界中で起こっている新型コロナウイルス感染症の蔓延は、人々の暮らしのあらゆる面に多大なダメージを与えています。日本では、緊急事態宣言により、2020年4月7日から5月25日まで、対象地域において外出自粛が強く求められる状況にありました。それにともない、在宅で仕事をすることを余儀なくされていた人々もいることでしょう。

今回のアンケート調査は、まさにその最中に実施しました。

1)外出自粛下に感じているストレスについて

図1 外出自粛前と自粛時のストレスの程度(平均値)

*10点満点。数値が高いほど、ストレスが高い。

外出自粛前よりも外出自粛時にストレスが高まっている結果となりました。(図1)

新型コロナウイルス感染症の蔓延は、世界中の人々に同時に起こったストレスフルな出来事です。私たちは現在も漠然とした不安の中で生活しています。悲しみ、怒り、虚しさ、不安を感じる人、楽しいことを見いだせなくなった人、精神的な負担からくる体の不調を訴える人も少なくないと考えられます。そのような場合は、信頼できる人に話を聴いてもらい、その気持ちを分かち合うことが、助けになる場合があります。また、それらの症状で、日常生活に支障がでるほどの状態になった場合は、心の専門家(精神科医、臨床心理士、公認心理師など)に相談することも考えてください。

後述しますが、ペットは、精神的サポートとなってくれたり、家族をつないでくれたりします。しかし、中には、子どものような存在のペットを守るという強い責任感から、緊張を強いられ疲労している人もいるでしょう。人は感染症の恐怖に怯えていますが、ペットたちにそのような現状は分かるはずもなく、いつも通りのペットの態度に救われることもあるでしょう。感染症予防やペットへの対策を考えることはもちろん重要です。それを前提として、ペットと一緒に過ごすときは、楽しい、面白い、癒される、可愛い、嬉しい、そのような感情に浸る、その時間を大切にしてください。

また、今回の調査では、多くの飼い主さんがペット自身のストレスに配慮し、犬の散歩時の対応など、ご自身で工夫を凝らしていることが分かりました。

代表的なものは「お散歩コースやお散歩の時間帯を変えた」「庭で遊ばせている」「室内でボールやおもちゃを使って遊ばせている」「ペットカートを利用している」などです。中には「散歩させる範囲のゴミ(たばこやマスク等)を拾うなどしてお散歩コースを衛生的に保つよう努めている」という心がけをされている方もいらっしゃいました。

 

2)ペットによる精神的サポートと家族をつなぐ役割

今回のアンケートの中には、私が過去に行ったアンケート調査と同じ質問項目も入っています。その二時点のデータを比較します。(過去の調査は、年数が経っており、協力者の条件は同一ではないため解釈に限界があります。)

図2  現在と過去のデータの家族をつなぐ役割(平均値)

*5点満点。数値が高いほど、ペットの家族をつなぐ役割を感じている。

外出自粛により、家庭内では、普段と違う生活を強いられます。家族が密接になり、親密になることもあれば、軋轢が生じる場合もあります。また、慣れない在宅ワークも本人や家族にとって、ストレスの一つになるかもしれません。新型コロナウイルス感染症の不安が広がる中、閉鎖された空間で過ごすことによって、家族の争いが増える可能性もあります。そのような中でも、図2からは、家族の間をつないでくれたり、家族の話題を増やしてくれたりする役割をより感じていることが読み取れました。

また、ここには掲載していませんが、今回の他の設問でも、過去の調査よりもペットとのふれあいによって得られる心地よさや楽しさをより感じている結果となっていることが読み取れました。

図3 外出自粛下の在宅ワークの有無の「ペットによる精神的サポート」(平均値)

*5点満点。数値が高いほど、ペットによる精神的サポートを感じている。

また、今回の調査では、在宅ワークをしていた人は、在宅ワークをしていない人よりも、ペットが精神的サポートになり、家族間のストレスを軽減してくれていると感じているという結果となりました。(図3)

これらのことから、通常時よりも外出自粛下において、ペットは快適な交流を提供し、精神的サポートとなり、家族を和ませ、家族同士の関係を円滑にしてくれる社会的効果の力を発揮したと考えられます。

 

3)一人暮らしの飼い主とペットの暮らし

ここでは詳細なデータを記載していませんが、一人暮らしの飼い主とペットの暮らしに関する調査結果の概要も紹介します。

一人暮らしの人は、家族と同居している人よりも、ペットと一緒にいると安心感が得られるという結果になりました。

外出自粛下では、対面のコミュニケーションが極端に減少します。外で人と会えなくなる状況の中、自宅でも人と会わない一人暮らしの人にとって、ペットが交流相手となり、安心感を与えてくれる貴重な存在になると考えられます。また、一人暮らしの人は、家族と同居している人よりも、ペットのために元気でいたいと考えていることが分かりました。

感染症への恐怖は共通に存在しますが、一人暮らしの人は、自分が感染したときに、ペットを同居の家族に託せない現状があるので、家族と同居している人よりも元気でいたいと考えていると推測されます。それは万全な予防意識につながる場合もありますが、万が一に備えて、ペットと感染症予防の知識を有した預かり先を考えておくことが、不安を解消することにつながると考えられます。

 

皆さまに留意していただきたいこと

ペットと暮らしている皆さまの中には、「新型コロナウイルスはペットに感染するのか?」と不安を抱えている方も少なくないと思います。そのようなときは、正しい情報を発信している情報源から情報を入手することが重要です。

また、ペットの相談に関して、皆さまが一番信頼しているのは、かかりつけの動物病院の獣医師や動物看護師ではないでしょうか。前述の公的な機関の情報、信頼している動物病院への相談を中心に、正しい情報を得て、ペットと安心して暮らすための一助としてください。

 

さいごに

多くの専門家は、ペットは、「無条件の愛」を与えてくれる存在であると言及しています。その人が何者であるかに関わらず、社会的役割や肩書を超えて、何か大きな失敗をしてしまったとしても、それを批判せずに、その人のあるがままを受け入れてくれます。人間関係では、それは時々難しいことかもしれません。ペットは、その人がその人であるがゆえに愛を注いでくれるのです。

ペットは無条件の愛情を与えてくれる存在ではありますが、反対に、飼い主が愛情を注いだり、世話をしたりする対象になってくれるともいえます。誰かに必要とされることが、その人の幸福感を満たしたり、孤独感を軽減したり、自尊心を高めてくれたりするのです。

また、身体的効果、心理的効果、社会的効果は、ペットとの良好な関係を築いている飼い主に顕著に現れます。単にペットを飼育しているだけでは、飼い主に良い影響を及ぼすとはいえません。お互いを大切にしているからこそ得られる効果であるといえるでしょう。

 

引用・参考文献

分かりやすく説明するために、個別の研究やデータは挙げずに、内容をまとめて記載している部分があります。

濱野佐代子.(2020).人とペットの心理学:コンパニオンアニマルとの出会いから別れ.北大路書房.39-53.

・キャッチャー・ベック編;コンパニオン・アニマル研究会訳.(1994).コンパニオン・アニマル:人と動物のきずなを求めて.誠信書房.;Katcher,A.H.,&Beck,A.M.(Eds.).(1983). New Perspectives on Our Lives with Companion Animals.The University of Pennsylvania Press.

・McCulloch,M.J. (1983).Animal-facillitated therapy: Overview and future direction. New Perspectives on Our Lives with Companion Animals. Katcher,A.H and Beck,A.M eds.The University of Pennsylvania Press. 410-426.

・Robinson編;山崎恵子訳.(1997).人と動物の関係学.インターズー.; Robinson,I.J.(Ed.).(1995).The Waltham Book of Human-Animal Interaction: Benefits and responsibilities of pet ownership. Pergamon.