「命の花プロジェクト」に込められた想い
命の花プロジェクト:
「青森県の動物の殺処分ゼロ社会の実現」のために、2012年度から青森県立三本木農業高等学校動物科学科愛玩動物研究室がはじめた、殺処分された犬や猫の骨を細かくし、土に混ぜ、花を育てる活動。
殺処分された犬や猫たちの「もっと長く生きたかった」という思いを花に命を与えることで遂げてほしい、この活動を通じて「命の尊さ」と「青森県の殺処分の現状」を訴えたいと考え、このプロジェクトの実現に至った。愛玩動物研究室の顧問の先生にお話を伺った。
課外活動の一環で訪れた動物愛護センター。そこで見たものは「殺処分の現実」だった
愛玩動物研究室が「命の花プロジェクト」を始めた経緯を教えてください。
2012年の3月に青森市にある青森県動物愛護センターへ本校の動物科学科の生徒が施設見学へ行ったことが、このプロジェクトを始めるきっかけとなりました。青森県動物愛護センターでは、動物の愛護事業として動物と触れ合える場所と、人間の都合で引き取られた犬や猫などを保護し、新しい飼い主を募っていてはいるものの行き先のない犬や猫の殺処分が行われる場所と2つの施設があります。通常、前者の施設しか入ることができないのですが、「動物科学科」という普段から動物のことを詳しく学んでいる学科の生徒たちであったため、特別に殺処分が行われる施設を見せてくれたようです。そこには、これから殺処分になるかもしれない動物たちの姿や殺処分機、焼却炉もあり、生徒たちは大変な衝撃を受けたようです。その焼却炉のそばには殺処分された動物たちの骨がたくさん入った袋がいくつも積み上げられており、事業系廃棄物いわゆるゴミとして取り扱われていることを聞き大きなショックを受けていました。
施設見学後、愛玩動物研究室のある生徒が当時の顧問の先生に殺処分された動物たちのために何かできないかと相談をしたそうです。そして、骨が肥料になることを知り、花を育てて多くの人に殺処分の現実と命の尊さを知ってもらう活動「命の花プロジェクト」を開始しました。
「生徒の想いをなんとか叶えさせてあげたい」プロジェクトを影で支えた先生
生徒から「殺処分をなくすために何かしたい」と相談を受けた際、先生はどのような反応でしたか?プロジェクトの実現に当たって、苦労した点はどんなところですか?
当時の愛玩動物研究室の顧問は赤坂圭一先生でした。なんとか生徒たちの想いを叶えさせてあげたいという一心で青森県動物愛護センターや学校側に掛け合い、さまざまな苦労を乗り越えて実現に至ったと聞いています。「殺処分された動物の骨を細かくする」という行為が教育的に良いのかという声は現在も寄せられます。また、全国から「お花を購入したい」とお問い合わせがあるのですが、殺処分された動物の骨は青森県動物愛護センターから無料で譲り受けていただいているものですので、その骨を混ぜた土で育てた命の花を営利目的で使用することはできません。本校かイベントに来ていただき、無料で生徒から直接手渡しすることにしています。
「命の花プロジェクト」を行う際に機械は一切使わないと伺いました。
殺処分された動物たちの骨を細かくするためにレンガを使用しますが、その作業は想像以上に時間がかかります。一時間細かくし続けても、わずかな量の骨粉にしかなりません。しかし、これだけ時間がかかってもこのプロジェクトには機械を一切使用しません。殺処分される動物は殺処分機などによって命を終え焼却炉に運ばれ、事業系廃棄物としてゴミ同様に処分されます。人間の身勝手な理由で命を絶たれた動物たちを、せめて人の手で土に還してあげたいという想いが込められているからです。
「命の花プロジェクト」を通じて、生徒たちに変化はありましたか。
「命の花プロジェクト」だけではなく、愛玩動物研究室の生徒は毎日当番制で愛玩動物舎の管理作業をして、動物の命と向き合っています。土日・長期の休みを含め、動物たちの世話に「休み」はありません。常に自分のことよりも動物の世話をしなければならないのです。動物の体調の変化を察知するためには普段から動物と接していなければ分かりません。そのような毎日を過ごしていると、自然と人間の変化にも気付けるようになります。例えば、「今日○○さんの調子が悪そう」や「○○さんの機嫌が悪そうだけど、どうしたのかな?」など、友達のちょっとした変化に気付きます。他人を思いやる気持ちが芽生え、自ら行動するようになったり、気配りができるようになったりと、動物との生活を通じて生徒の成長にとても良い影響が見られます。
青森三本木農業高等学校へ赴任が決まった時、どのような気持ちでしたか?
私は本校に新採用で赴任して今年で3年目になります。その前は定時制高校で2年間理科を教えていました。正直、「こんな無名の新人が後を継いでいいものか」と思いました。
「命の花プロジェクト」を始めた赤坂先生は10年以上愛玩動物研究室の顧問をされてきた、ベテランの先生です。また、メディアで大きく取り上げられたこともあり、「命の花プロジェクト」は大変有名になっていました。そんな時に全く知識のない私がやっていけるのか、当時は不安しかありませんでした。本校に来て、一番苦労したことは「動物との信頼関係を築く」ことです。10年以上飼い主だった赤坂先生から突然違う飼い主に変わるということを、人間の言葉が通じない動物たちにどのように理解させたらいいのか。全く心を開いてくれず、一年がかりで信頼関係を築いていきました。一方、生徒たちは温かく迎え入れてくれ、私に色々なことを教えてくれましたので大変助かりましたね。
さて、生徒と一緒に実際に命の花の鉢上げを体験してみましょう。
この茶色い袋に入っているものが殺処分された動物たちの骨です。この中から、肥料として土に還らない金属類を取り除きます。ご覧いただくと分かる通り、鑑札や首輪、鈴などが出てきます。殺処分された動物たちには飼い主がいたということになります。
金属類を取り除いた骨を、今度は土に混ぜるためにレンガで細かくします。この作業が一番大変です。そして細かくした骨と土を1:9の割合になるように混ぜていきます。骨を多く混ぜすぎると花が育ちにくいです。
ちなみに、鉢に刺している札に書かれている文字は、すべて生徒たちの手書きです。
生徒さんに伺いました
レンガで骨を細かくする時、どのような気持ちになりますか?
私は昔から動物が大好きなので、「何故飼っていたペットを殺処分させられるのだろう」と悲しい気持ちになります。このプロジェクトを通じて、一人でも多くの人に殺処分の現実を伝えて、減らしていきたいと思っています。
卒業後はどのような進路に進みたいと考えていますか?
- 動物看護士になりたいと思っています。試験があるので、今はその勉強をしています。
- 将来は体育の先生になりたいと思っているので、卒業後はそういう進路に進みたいと考えています。
- 一般の大学に進学して、これから将来のことを考えようと思っています。
動物関連以外の進路を選ばれる方も多いみたいですね。
動物科学科を卒業したからと言って全ての生徒が動物関連の進路を選ぶとは限りません。私は、生徒は動物を扱うことで命の大切さを他の人よりも分かっているので、どのような職業に就いても「命の大切さ」を他の人へ伝えられる人になってほしいと思っています。動物科学科では一年生の時にヒヨコを飼い育てます。そのヒヨコがやがて大きくなり卵を産み出すと、卵を産めなくなったニワトリは淘汰されます。生徒たちの手で卵を産めなくなったニワトリを屠殺して、捌いて、命をいただくのです。このようにして、生徒たちは命の大切さを学ぶことになります。
最後になりますが、プロジェクトを行う上で一番大事にされていることを教えてください。
「命の花プロジェクト」はメディアに取り上げられることも多く、全国からお花を譲ってほしいという大変有難い声が寄せられます。出来るだけ多くの方に殺処分の現状を伝えていきたいという想いもありますが、私たちは「生徒の想いを届ける」ということも非常に重要なことと考えており、お花のお渡しは「手渡し」のみとしています。お花を箱に入れて届けることは可能ですが、そこに生徒の想いが一緒に届けられるかと言えば、決してそうではないと思います。尊い命が人間の手によって失われている現状を生徒の口から直接伝えることに、この活動の意味があります。遠方の方はなかなか本校へ来ることが難しいと思いますが、時々参加させていただくイベントなどで他県に行くこともあります。そのような場で一鉢かもしれませんが、「命の花」をお渡しすることができます。「殺処分をなくしたい」その生徒たちの純粋な思いを、生徒の手から受け取って欲しいと強く思っています。
法人名 :青森県立三本木農業高等学校
住所 :青森県十和田市大字相坂字高清水78-92
設立年 :1898年
校長 :瀧口 孝之
学科 :植物科学科、動物科学科、農業機械科、環境土木科、農業経済科、生活科学科