ペット業界の海外事例①~BarkBoxのビジネスモデル
BarkBoxとは

「BarkBox」とは、米ベンチャー企業Bark & Co.が提供する、犬向けのおもちゃや骨、ケア用品などを詰めた「BarkBox」を毎月定額で届けるサービスである。2011年12月にサービスが開始されてからユーザー数を急速に増やしていき、14年7月時点で20万人を超えた。
ユーザーの80%は女性であり、その多くが「25~35歳の子どものいない女性」、または、「45~55歳の子どもがすでに独り立ちした女性」である。BarkBox事業は「犬は家族の一員だ」というコンセプトを掲げており、犬に対して子どものように接する人々に好まれて利用されているようだ。
コンセプトに対するユーザーの共感を得ていることを反映してか、ユーザー数が急増しつつも、ユーザー継続率は90~95%と高水準であり、ロイヤリティ―の高い顧客を獲得しているようだ。
BarkBoxユーザー数の推移
(出典)記事検索
◆BarkBoxのビジネスモデル
BarkBoxは、ペット用品メーカーと消費者を仲介することで、ペット用品の販売を効率化・活性化した。
ユーザーに対しては、購買登録時に犬の大きさ(大/中/小型の3段階)と月次プラン(1/3/6/12ヶ月契約)のみを要求し、「BarkBox」の中身の商品は会社側で選定して毎月届ける仕組みだ。
一方で、メーカーに対しては、複数のメーカーと契約することで幅広い商品プールを獲得し、その中からユーザーや月のテーマに合った商品を選定&提供してもらう形である。
BarkBoxのビジネスモデル
◆事業アイデア創出の経緯
自身が愛犬家である会社創設者のMatt氏は、「色々なペットショップを1日おきに立ち寄っても良いグッズは見つからなかった」と述べており、日頃からサイズがぴったりなグッズを探すことに苦労していたようだ。
この苦労体験から、Matt氏は犬用グッズの販売経路等について自身で調べたところ、犬用グッズを作っている会社は数多くあり、幅広い商品を有するのに、その多くが販売経路を持っていないことが分かった。
自身の体験と調査によって、ペット飼育者とペット用品メーカーの間には大きな溝があることを知ったMatt氏は、その溝を埋めるビジネスを考え、BarkBox事業を開始した。
なぜBarkBoxは強いのか
上述したように、米国のペット用品販売には、飼育者側とメーカー側のそれぞれの立場で問題が見られた。
まとめると、以下のようになる。
米国のペット用品販売における問題点 | |
飼育者側 | 良いグッズを探すのはハードルが高い ・店舗に行ってもサイズが合う商品がなかなか見つからない ・愛犬が興味を持つグッズを見つけるのは難しい |
メーカー側 | 飼い主向けのチャネル整備は難しい ・ホームセンターではペット用品向けの販売スペースは限られている |
Matt氏は、BarkBox事業によって①手軽に幅広い商品を提供すること、そして、②メーカーに販売チャネルを提供すること、の2つを達成することにより、上記の問題点を解決した。また、単に問題を解決するだけでなく、飼育者とメーカーの両者に対して以下のようなメリットを与えたことが、BarkBox事業の強みであると言える。
①ユーザーに手軽に幅広い商品を提供
ユーザーは、商品の大きさという必要最低限の情報だけを入力するだけでよいため、自分で商品を選ぶ手間が省くことができる。また、値段が安い(月々$19~29)ため、愛犬のために幅広い商品を試すことができる。さらに、毎月の決められたテーマ(ハロウィーンやクリスマス等)に沿った商品を届けるため、顧客に商品を選ばせなくとも楽しみにしてもらう工夫が施されている。その結果として、継続率が90%を超えているのだと思われる。
②メーカーに販売チャネルを提供
メーカーは、自社で製造した幅広い製品を販売する十分な場所を確保できていなかったが、BarkBoxと組むことにより新たなチャネルを得ることができる。また、BarkBoxは定期的に販売されるものなので、販売量が安定的に見込め、且つ、販売予測がつきやすい点でメーカーにとって好ましいチャネルと言える。
日本市場への応用
以上のような理由で、BarkBoxは米国で急速にユーザーを獲得した。以下では、このモデルが日本でも通用するのか、また、細かいサービスの設計をどうすべきかについて考察する。
◆日本で類似ビジネスをやる場合の注意点
まず、上で考えてきた飼育者とメーカーに小売業者を加えた3つの点について、米国と日本の間の違いと共通点を考える。
飼育者に着目すると、米国は一軒あたりの住宅と庭の面積が広いため、大型犬も容易に飼うことができる。一方で、日本は土地面積が狭いため、小型犬を飼う家庭が大半を占める。また、近年は猫の飼育頭数が伸びているという特徴もある。
次に小売業者について考える。米国の場合は、国土が広いことから実店舗が点在していること、また、地元シェルターから犬をもらうため、ペットショップがほとんどないことがBarkBoxの普及を助けたと思われる。日本は、ペットショップ経由で飼い始める人が半数以上であることからも分かるように、米国には無い小売店舗が存在している。
一方で、コンシューマーたるペットたちの特徴が米国と大きく違うため、顧客特性を犬の大きさのみで分けるのは、妥当でないと思われる。日本は小型犬に偏りがちであり、その中でも少数の品種が全体の半数以上を占めることから、小型犬に特化したサービス、あるいは、メジャーな品種別にプランを作る等が効果的だと考える。また、犬に比べて猫の飼育頭数が増加していることから、猫向けサービスを行うことも一つの選択肢として挙げられる。
さらに、ペットショップ等、米国に比べてペット用品を購入できる小売店舗が身近にあり、ペットと来店すればお試しで商品を使える店舗もあるようだ。それに対抗するために、ペットが気に入らなかった場合の保証サービスを充実させる、あるいは、毎回のサプライズ要素をさらに充実させる等、付加サービスでカバーすることが良さそうだ。
運営会社紹介
Bark & Co.は、2011年に設立したベンチャー企業であり、米国やカナダにおいて犬に焦点を当てたサービスを行っている。BarkBoxのみならず、犬関連の記事を提供するメディア「BarkPost」、「犬のためのInstagram」と呼ばれている「BarkCam」、「犬のためのTinder」と呼ばれている「BarkBuddy」等、犬に関連した複数のサービスを提供している。
会社概要 | |
会社名 | Bark & Co. |
事業領域 | ネットを利用した犬関連サービスを複数展開 |
事業地域 | 米国、カナダ |
CEO | Matt Meeker |
設立年 | 2011年 |
従業員数 | 70人超* |
売上高 | 約30億円** |
* 2015年6月時点
**2014年7月時点
Bark & Co.の事業ポートフォリオ
【関連ページ】
■ドイツのペット事情~日本と異なる飼育文化・犬税・ビジネス
ドイツは「ティアハイム」や「犬税」で有名なペット先進国で、日本のペット従事者の中にも参考にされている方が多数いらっしゃると思います。本記事では、ペット飼育者の特徴やペットに関する制度、ペット関連事業等の観点から、ドイツと日本の違いについてご紹介しています。