ティアハイムとは~ペット先進国ドイツの動物保護事情

2016年7月25日

 

ドイツでは、民間の動物保護協会が運営する「ティアハイム(Tierheim)」が飼い主斡旋等を行っている。「ティアハイム(Tierheim)」はドイツ語で「保護施設」を意味し、全国に500か所以上存在する。これらを運営する750以上の動物保護協会を束ね、計80 万人以上の会員を擁する全国組織がドイツ動物保護連盟(Deutscher Tierschutzbund)だ。

以下では、ドイツ各地にあるティアハイムの中でもひと際大きい「ティアハイム・ベルリン」に焦点を当てて、その施設設備や収益源等について紹介する。

欧州最大級の保護施設”ティアハイム・ベルリン”

ベルリンにある「ティアハイム・ベルリン(Tier Heim Berlin)」は、ヨーロッパ最大級の保護施設だ。ベルリン市内から北東の方角へ車で30分程の距離に位置し、周りには広大な緑地が広がっている。施設の総面積は東京ドーム4個弱相当の18.5万㎡にも及び、犬や猫をはじめとして、ウサギ、ラット、鳥、爬虫類、馬、羊など、多種多様な動物を保護している。年間で約1.5万頭の動物が収容されており、そのうち6割は、引っ越しや飼い主が死亡したこと等を理由に引取られた動物だ。残りの4割、飼い主が不明であったり、劣悪な環境で飼育されていたために獣医局によって没収された動物たちである。

引取られた動物は、施設で保護している間に健康を害さないよう、また、引取った際についていた癖(吠え癖、かみ癖など)を直すような環境・仕組みを作っている。例えば、犬は同類と接触を持つことが重要であり、個室から互いに顔を合わせられる構造に施設を設計していたり、最低6㎡以上の広い飼育スペースが確保されている。羊やウサギ、爬虫類等の保護棟もあり、各動物の大きさに合った飼育スペースと、水辺や木々、牧草地といった適切な生態環境を用意している。このように、引取った動物が本来持つ性質に合わせて飼育することは、近年研究が盛んに行われている分野「シェルターメディスン」の考え方にも一致する。

動物たちの世話や施設の管理を行っている従業員は約140人いる。加えて、ボランティアが600人程おり、従業員の業務の手伝いをしている。ティアハイムの中には、動物を保護してから半月~1ヶ月程度収容する病院もあり、そこで業務を行うスタッフの数は獣医師、動物看護士それぞれ10人程度だ。

9割を超える譲渡率

年間で1万頭以上の動物を引取っているということだが、譲渡率はなんと9割を超えるそうだ(中日新聞記事より)。日本の返還・譲渡率も年々高まっているものの、その直近の数値(2015年、犬63.5%/猫25.6%、殺処分のデータ記事より)と比べても、はるかに高い割合で引取った動物を譲渡していることになる。

とは言っても、ティアハイム・ベルリンの譲渡基準が甘いということではない。ティアハイム・ベルリンでは、施設の犬猫を引取る際に飼育環境等の審査を設けている。例えば、希望者は「1日に8時間以上仕事で家を留守にしないか」や「家族の中で動物が嫌いな人がいないか」といった家族構成・住居環境・勤務時間等に関する質問をされる。ちなみに、8時間以上家を留守にする場合や家族の中で動物が嫌いな人が1人でもいる場合は、犬や猫を引取ることができない。こうした条件を設けることによって、安易な譲渡が起こるのを防いでいるのだ。

また、例えば猫舎には元野良猫の楝を含めて多種多様な猫が開放的にケージで飼われており、見るだけでも楽しむことができる。引取りのみならず、ただ動物を見に来る人たちが増えれば施設に訪れる人数が増え、少なからず譲渡数にも良い影響がありそうだ。さらに、各猫のケージには名前や誕生日、保護された理由等が書かれた自己紹介カードが貼られている。これによって、すぐそこにいる猫の名前や背景を通して親近感が湧き、最終的には譲渡にまで繋がっているのかもしれない。

ドイツ動物保護連盟は、ティアハイムの運営において「基本的には殺処分をしてはならない」という指針を定めている。ただし、必ずしも動物を殺さないということではなく、動物福祉の観点から、治る見込みがないケガや病気に動物が苦しんでいる場合は殺処分(=安楽死)が必須であるとも定めている。安楽死をするか否かは獣医師が判断しており、こうした点は神奈川県動物保護センターにも共通するところがある。

ティアハイムの収益源

ティアハイムの収入は、基本的には企業や市民からの寄付金・遺贈金で賄われている。ティアハイム・ベルリンを運営するベルリン動物保護協会(Tierschutzverein für Berlin)は、約1.5万人の会員と約1万人の寄付者を有しており、会員からはミニマムで年間20ユーロを支払ってもらっているようだ。会員になると、会員限定マガジン「Berliner Tierfreund」やカレンダーがもらえる他、動物アドバイザーから飼育に関する情報等を直接得ることができる。

ティアハイム・ベルリンに限らず、欧州の多くの愛護団体は、その収入のほとんどを寄付金や遺贈金に頼っているようです。欧州の愛護団体の収益構造に関しては、「イギリス動物愛護団体の収益構造から学ぶ安定的な運営の秘訣」をご覧ください。

その他にも、獣医局が没収した動物の保管を委託する料金として、年間60万ユーロがティアハイムに支払われているが、これは、施設の年間維持費800万ユーロのうちの約7.5%に過ぎない。

【関連ページ】

ドイツのペット事情~日本と異なる飼育文化・犬税・ビジネス
ドイツは「ティアハイム」や「犬税」で有名なペット先進国で、日本のペット従事者の中にも参考にされている方が多数いらっしゃると思います。本記事では、ペット飼育者の特徴やペットに関する制度、ペット関連事業等の観点から、ドイツと日本の違いについてご紹介しています。
日本における犬猫の殺処分の実態~現状と先端的な解決策
殺処分の現状について統計データを交えながら考察し、問題の課題提起とその解決を図る先端事例の紹介を行っています。
シェルターメディスン~保護施設を最適に運営する最新の考え方
施設の目標値(罹患率や安楽死の数など)を達成するために、個々の動物というよりも動物集団全体に目を向けるのが「シェルターメディスン」です。この研究が始まった背景やシェルターメディスンが絡んだ施設運営に欠かせない点についてご紹介します。
ペットのための防災対策において重要なこととは

 

ページトップボタン