ペットのための防災対策において重要なこととは

2017年2月10日

2011年に起きた東日本大震災、2016年に起きた熊本地震を通して、災害時に起こるペット関連のトラブルやその対応策が明らかになった。環境省は、防災対策としてペット飼育者がすべきことをガイドラインにまとめているものの、飼育者に周知されず、依然として防災知識について十分な知識を持たない飼育者もいるのが現状だ。本記事では、アイペット損害保険(株)が行った「ペットのための防災対策に関する調査」や環境省の「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を参考にして、より良い防災対策やその普及啓発方法について考察する。

 

環境省によるガイドライン

環境省による「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」では、飼育者の役割として「同行避難」と「災害避難時における飼育管理」を挙げている。

ここで「同行避難」とは、災害が起きた時に、飼育者とペットが同行し、安全な避難場所まで避難することだ(必ずしも、避難所で人とペットが同居できることを意味するものではない)。過去の震災では、家の方が安全に思われたり、避難所で起こり得るトラブルを懸念して、ペットと共に避難しない飼育者が多くいたようだ。しかし、その結果として、飼育者が帰れない日が続く間にペットが衰弱死してしまったり、迷子対策や去勢手術をしていないために飼育者不明の野良犬猫が繁殖してしまう、といったことが起こった。野良犬猫が増えると、彼らが人間に危害を与えたり保護活動に余計なリソースがかかってしまう。従って、環境省は災害時に同行避難することを飼育者に対して推奨しているのだ。

一方、同行避難をした後にも注意が必要である。東日本大震災の際に避難所で最も多かった苦情は、犬の鳴き声や臭いに関してだという。また、他の避難者との共有スペースでペットが排泄してしまったり、アレルギー体質の人がおり、避難所内の同じスペースで飼育できない等、複数のことが原因となってトラブルが起きたようだ。しかし環境省は、普段からペットの避難に必要な用具を用意したり、しつけや健康管理をしておくことで、避難所生活で溜まるストレスをある程度軽減させることが可能だと述べている。加えて、飼育者自身に関しても、ペットを優先させるような過度の要望を通そうとせず、他の避難者とのバランスを考慮する心がけが必要だろう。

飼育者が行うべき対策例(環境省より)

平常時 災害時
  • 住まいの防災対策
  • ペットのしつけと健康管理
  • ペットが迷子にならないための対策
    (マイクロチップ等による所有者明示)
  • ペット用の避難用品や備蓄品の確保
  • 避難所や避難ルートの確認等の準備
  • 人とペットの安全確保
  • ペットとの同行避難
  • 避難所・仮設住宅におけるペット
    の飼育マナーの遵守と健康管理

出典:「災害時におけるペットの 救護対策ガイドライン」(環境省)https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506/ippan.pdf

自治体や飼育者の防災対策状況

東日本大震災時の自治体の状況

環境省が「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を作成した背景には、東日本大震災がある。多くの飼育者が同行避難せずに自宅等にペットを残したため、飼育者不明のペットが数多く保護されたようだ。

しかし、自治体側のペットとの同行避難に関する取り決めが十分なされていなかった側面もある。環境省の「東日本大震災におけるペットの被災概況」によると、東日本大震災時に避難所・仮設住宅を設置した159の区市町村のうち、避難所でのペットの受け入れについて方針を定めていた自治体は41に限られていた。飼育者にガイドラインを周知させる前に、各地方自治体は災害時の対策として入念な取り決めを行う必要があるだろう。

飼育者の防災対策状況

一方で、飼育者はどの程度防災対策をしているのだろうか。アイペット損害保険(株)は、2017年1月に犬や猫の飼育者(以降、ペット飼育者と呼ぶ)を対象として、「ペットのための防災対策に関する調査」を行った。

当該調査によると、ペット飼育者のうち4割以上の人がペットのために防災対策をしていないようだ。さらに、猫の飼育者に関しては、約6割の人が猫のために防災対策をしていない。

 

(出典)アイペット損害保険(株)調べ

また、環境省がペットの同行避難を推奨していることを認知しているペット飼育者は約4人に1人に限られており、ペットのための防災対策の普及啓発が課題であることが伺える。最寄りの避難所の場所については、8割程度の人が把握しているものの、その内の半数近くはペットを連れて避難できるか把握していなかった。

(出典)アイペット損害保険(株)調べ

(出典)アイペット損害保険(株)調べ

次に、ペットのための防災対策として何を備蓄しているか尋ねたところ、9割を超えるほとんどの人がフードや飲料水を備えていると回答した。その他、トイレ用品やブランケット等、生理用品や体調管理に用いる品が上位に挙がった。

(出典)アイペット損害保険(株)調べ

一方、環境省が推奨する、用意しておくべき備蓄品には、「フード・水」といった飼育者アンケートと一致する項目がある一方で、「療法食・薬」や「飼い主の連絡先とペットに関する飼い主以外の緊急連絡先・預かり先などの情報」等、消費者が強く意識していない項目もいくつか見られた。

高齢の犬や猫の場合、日頃から療法食を食べていたり、薬を飲んでいる場合が多いだろう。震災時は、数日間獣医師の診療を受けることができず、外で薬が手に入らない可能性も考えられるので、一定量備蓄しておくのが良さそうだ。

また、飼育者とペットがはぐれてしまった時のために、飼育者やペットの情報を首輪や迷子札、マイクロチップ等を使ってペットに付けておくことも非常に重要だ。また、飼育者に連絡がつかなかったときのために、飼育者以外の連絡先も用意しておくのが良い。

用意しておくべきペット用の備蓄品(環境省より)
優先順位1 優先順位2
  • 療法食・薬
  • フード・水
  • 予備の首輪、リード
  • 食器
  • 飼育者の連絡先とペットに関する飼育者以外の緊急連絡先・預かり先などの情報
  • ペットの写真
  • ワクチン接種状況、既往症、健康状態、かかりつけの動物病院などの情報
  • ペットシーツ
  • 排泄物の処理用具
  • トイレ用品
  • タオル・ブラシ
  • おもちゃ
  • 洗濯ネット(猫の場合)

出典:「災害時におけるペットの 救護対策ガイドライン」(環境省)https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506/ippan.pdf

普及啓発・トラブル回避のためにできること

以上を踏まえると、ペットのための防災対策の課題は、①ペット飼育者に対する防災対策の方法を普及啓発すること、②災害時における自治体側の対応の改善と、そのための準備だと思われる。

防災対策を普及啓発するためには

ペット飼育者に対して「正しい」防災対策を普及啓発するにはどうしたら良いだろうか。内閣府の「防災に関する世論調査」によると、9割を超えるほとんどの人は、テレビから防災に関する情報を集めるという(注:本調査の母集団は日本国内の全世帯)。続いて、新聞やラジオといったメディアが多く用いられており、防災情報のホームページであったり国や地方自治体のパンフレットは、それぞれ6人に1人程度しか活用されていないようだ。

この結果から、自治体単独での普及啓発は難しく、民間組織やメディアとの協力が必要なのではないかと推察される。

防災全般に関する知識や情報の入手先

出典:「防災に関する世論調査」(内閣府)https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506/ippan.pdf

また、以下のグラフは「防災対策」というキーワードがGoogleでどの程度検索されているかを時系列で表している。これを見ると、2008年6月、2011年3月、2016年4月等において、検索量が急上昇していることがわかる。これらは、それぞれ岩手・宮城内陸地震、東日本大震災、熊本地震が起きたことが起因していると思われる。特に、東日本大震災の時は最も検索量が多くなったが、その後は時間を経るごとに逓減している。

このことから、人々の防災対策への興味関心は災害直後に急上昇し、時間を経るごとに薄まってしまうと言えるだろう。防災に関するニュースは災害時に多く出る傾向にあるが、災害から時間を経たときにこそ、人々の意識に訴えかけるべきだろう。

Googleにおける「防災対策」の検索量推移

(出典)Googleトレンドで取得したデータを基に、アイペット損害保険(株)が作成

災害時の自治体側のより良い対応とは

災害時に、自治体のみでペット飼育者やペットへの対応を行うことには無理があるだろう。実際に災害が起こってしまった際もまた、普及啓発の時と同様に、民間団体や動物病院、企業等と連携することが大変重要だと思われる。

東日本大震災時の仙台市が良い例だ。地震発生後、仙台市は「仙台市被災動物救護対策臨時本部」を立ち上げ、仙台市動物管理センター・仙台市獣医師会・NPO法人・企業等と連携して、被災ペットの救護を行った。動物管理センターは一時的にペットを預かり、NPO法人は情報収集や物資搬送を行い、ペットショップはペットフードの集積拠点としてスペースを提供する等、役割分担して対応に臨めたことが良かったようだ。(参考:環境省資料より)