神奈川県動物保護センターのすべて(後編)~殺処分ゼロのその先へ

2016年7月21日

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神奈川県動物保護センター
業務課長 岩屋修氏


神奈川県動物保護センターについて:
動物を収容している建物は「本館」「猫舎」「飼育管理棟(&ふれあい動物ひろば)」の3つ。「本館」「猫舎」ではそれぞれ保護した犬・猫を、飼育管理棟やふれあい動物ひろばではスナネズミやカメ等の犬・猫以外の動物も収容している。今後は、「動物を処分するための施設から生かすための施設へ」をコンセプトに、新しい保護施設の建設を予定している。施設を案内してくださった岩屋氏は、獣医師の資格を持っており、動物への愛情が案内中も垣間見れた。

本記事の前編「神奈川県動物保護センターのすべて(前編)~協力者との協奏が生み出した答え」では、神奈川県動物保護センターやボランティアの方々の取り組みについて紹介しました。後編は、保護センターの施設見学の際に岩屋業務課長からいただいたお話と、今後の展望について紹介します。

 5つの部屋と「眠り」の装置

初めに、本館の地下にある飼養管理室に案内していただきました。そこには、壁で5つに分けられた部屋があり、部屋の中にいる犬たちが私たちの方に近づいて来てこちらを見ています。

kanagawaken5犬たちが私たちに気付いてこちらに近づいてくるでしょう。ここにいる犬たちの多くは、当所に来る前は一般家庭で飼われていたため、人に慣れている子たちが多いのです。

ここは、今も昔も、引取られた犬を保護する場所として利用されています。現在は、犬種や年齢、犬同士の相性の良さを勘案して、犬たちを各部屋に振り分けています。そして、最低でも5日間(県の条例で定められている保護期間)は元の飼い主が迎えに来るのに備えてその部屋で収容します。5日が過ぎると、当所が開く譲渡会を通して直接新しい飼い主さんにお渡ししたり、ボランティアの方々に譲渡をしています。

一方で昔は、今のように相性で部屋を分けられず、どの犬も引取られた当日に一番右端の部屋に入れられました。そして、元の飼い主が見つからないまま日数が経つと、一日おきに壁が左へと動き、それに応じて犬たちも移動していきます。不幸にも、“5”日が経ってもその部屋に残されたままの犬たちは、その先にある「スリーピングボックス」へと連れて行かれ、殺処分されたのです。部屋が“5”つあるのは、このような背景があるためです。

今では各部屋に多くても10頭弱の犬しかいないですが、年間で1万頭を超える犬たちを殺処分していた時代には、部屋は犬たちで満ちており、横になって寝るスペースもないような状況でした。

続いて、この5つの部屋の先にある「スリーピングボックス」と呼ばれる殺処分装置を操作する部屋に案内していただきました。装置を制御している機械はとても古く、妙なkanagawaken6生々しさを感じました。

今では、“5”つの部屋を仕切る壁が殺処分のために動くことはありませんが、かつては抑留期間が経過した犬たちを、壁が動いてスリーピングボックスへと誘導していったのです。

そして、職員が炭酸ガスの注入スイッチを押すと、ボックス内に炭酸ガスが注入され、犬たちは命を落としていったのです。

 

 保護センターは「様々な人・動物が交わる場」

その後、猫を収容している部屋を訪れました。そこにいる猫たちはあまり人慣れしていない様子で、静かにじっとこちらを見ています。一方、壁際に目をやるとたくさんの牛乳パックでできた容器がありました。          

この牛乳パックでできた容器は、ボランティアの方々からいただいた物を利用し職員が作った猫のトイレです。素材が牛乳パックなので水に強く、頑丈かつ衛生的というのが特徴です。

ボランティアの中には、譲渡をお手伝いしてくださる方々だけではなく、シャンプー等の収容動物のお世話をお手伝いしてくださる方や動物愛護の普及啓発をしてくださっている方がいらっしゃって、様々な方面からご協力いただいております。

最後に、本館から少し離れたところにある「ふれあい動物ひろば」に案内していただきました。

kanagawaken7ふれあい動物ひろばは、平日は自由に解放していまして、犬をはじめとして、カメやハト、モルモットにスナネズミ等、様々な動物たちと接することができる場所です。特段、設備が立派だというわけではないですが、開園時間から職員が常駐しているので、動物に関する話を聞くことができます。

ここにいらっしゃる方々は、親子や放課後の子どもたちが多いですが、時にはカップルもいます(笑)。 ふれあい動物ひろばでの動物たちと触れ合う体験が実際に譲渡に繋がったという厳密なデータは取っていませんが、少なくとも、触れ合ってみて飼ってみたいなと思った方もいるようです。

情操教育という観点から、実際に動物たちに触ってみることは大変重要なことだと考えています。そのため、私たちはふれあい動物ひろばやふれあい教室を通して動物に触る機会を提供し、それを基点に動物愛護の精神を育てることができたらなと考えています。

殺処分ゼロを達成した今、残る課題にどう対処すべきか

神奈川県動物保護センターは、「動物を処分するための施設から生かすための施設へ」というコンセプトのもと、新しい保護施設の建設を予定しているようです。

ふれあい動物ひろばを別の場所に移し、今現在ふれあい動物ひろばがある場所に新しい保護施設を建設する予定です。そして、この施設は災害時には迷子動物や負傷動物の一時保護施設としても活用する計画になっています。

この新しい保護施設を建設する目的は、大きく2つあります。まず1つ目は、動物の収容環境の改善をすることです。既存の施設は、もともと殺処分のために作られたということと老朽化のために、動物たちにとって住みやすい環境とはお世辞にも言い難いです。従って、新しい施設では空調や採光、個別に管理できるような設備等を作ろうと考えています。

2つ目は、動物愛護の精神の普及啓発の拠点とすることです。これまで関わってきてくださったボランティアの方々はもちろん、その他のボランティアの方々が当所に来てネットワークを構築したり、ボランティア活動をしたりしやすいようにできればなと考えています。例えば、談話室や譲渡会ができるようなスペース、ボランティアの方が着替えをすることができる更衣室等、です。

以上のことを検討するにあたり、「動物保護センターあり方検討会」が昨年度に立ち上がりました。この検討会には、県の職員だけではなく、ボランティア団体や獣医師会員等の有識者の方に入っていただき、動物を処分するための施設ではなく生かすための施設として運営していくためにはどういった施設がいいのかを、ご検討いただいているところです。

インタビューと施設見学の最後に、殺処分問題に関する今後の展望についてお伺いしました。

これまで話したように、多くの方々の様々な取り組みにより、犬・猫ともに殺処分ゼロを達成することができました。しかし、最も重要かつ大変なことは一度達成したことを継続することです。新保護センターの建設等、次なるステップに向けて既に動き出していますが、犬・猫殺処分ゼロを今後も継続していくために新たなチャレンジをしていきたいと考えています。

また、犬・猫以外の動物たちにも殺処分ゼロを広めていけたらなと考えています。あまり知られていないかもしれませんが、当所は犬・猫以外にもニワトリやカメ等、様々な動物の引取りを求められます。そういった動物たちのためのボランティアは未だ成熟していないのが現状ですので、当所としても施設内で長期間飼養し、譲渡していくという方法を模索することが今後の課題です。

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残念ながら施設見学の際に訪問できなかった、神奈川県動物保護センターの敷地内「やすらぎの丘」にある慰霊碑もご紹介します。様々な事情により当所に収容され処分されることとなった動物たちの霊を供養するとともに、動物愛護の意識を新たにすることを目的として作られました。

動物慰霊式の様子
動物慰霊式の様子

 

神奈川県動物保護センター

組織名    :神奈川県 動物保護センター

本社所在地  :〒259-1205 神奈川県平塚市土屋401

開設     :昭和47年4月

所長     :橋爪廣美氏

URL    :http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f80192/

 

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